岩泉誠太郎の恋

岩泉君との正しい距離感

目をハートにして眺めてるのがバレバレだと言われ、私は岩泉君を見守るのを控えるようになった。そもそも私みたいな女がいるから、彼は恋も知らない子供の頃から苦労してきたのだろう。そう思うと、彼の視界に入ることすら忍びない。

「俺があんな話しちゃったせいだよね?」

「え?何が?」

その後も続いていた坂井君との勉強会で、彼が突然謝ってきた。

「椿ちゃん、誠太郎を見なくなったでしょ?遠慮させちゃったかなって思って」

「あーいや、なんていうか。私はアイドルを応援するみたいな気分で岩泉君を眺めてたんだと思うの。でも岩泉君はアイドルじゃないって気づいたっていうか。よく知らない人にジロジロ見られたら気持ち悪いって私でも思う。岩泉君も同じに決まってるのに、本当自己嫌悪もいいとこだよ」

「でも、好きなんでしょ?」

「うーん。想いを返してもらえなくても構わない程好きかっていうと、あまり自信ないかも。岩泉君が幸せになれたらいいなって心から思うけど、彼が幸せなら私も幸せ、とはさすがに思えない。私なら彼を幸せにできるって思える程傲慢にはなれないしね。私は私でちゃんと幸せになりたいなって」

「もし、、想いを返してもらえたら?」

「そんなもしもの話をしても、虚しいだけじゃない?第一、私は岩泉君のことほとんど知らないし、彼も私のことなんて全く知らない。そもそもが想いを通わせるとか以前の問題なんだから、もう気にしないで?坂井君のせいでどうこうって話では全くないよ」

坂井君が伺うような視線をよこし、少ししてため息をもらした。

「椿ちゃんて、本当優しくていい子なんだね。参ったな、、」

「参った?」

「椿ちゃん、誠太郎じゃなくて俺を好きになってれば良かったのにねー。俺だってそこそこいい男だし?」

そう言って微笑んだ坂井君がいつもと同じ軽い雰囲気に戻って、少しホッとする。

「ははは。本当だねー」

「何だよ!その棒読み!かっこいいって前に椿ちゃんも言ってたじゃんか!」

「あはは!冗談冗談!坂井君はかっこいい!本当、すっごくかっこいい!」

「何それーなんかむかつくー」

アラビア語の授業は3年まで続くのだ。彼との関係が気まずくならずに済んで良かったと思う。
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