岩泉誠太郎の恋

避けきれない存在

それから少しして、アラビア語の授業の後に先生に呼び止められ、話があるから教室に残るよう言われた。

「安田さんはもう就職活動は始めてる?」

「はい、まだ自分が就きたい職の方向性が定まらなくて本格的にはしていませんが、とりあえずは色々幅広く企業研究をしている感じです」

「アラビア語を使う仕事に興味ないかな?実はOBから優秀な生徒がいたら是非紹介して欲しいって相談されていてね。石油を扱ってる商社なんだけど、アラビア語の読み書きが堪能な人材がかなり重宝されるみたいなんだ。専門用語が必須になるから更に勉強が必要になるけど、通訳程の会話力はいらないし、君なら適任だって思ったんだけど」

漠然と語学力を活かせる仕事をしたいとは考えていたけど、いきなりの具体的な話にちょっとしり込みしてしまう。でもこれがもの凄くいい話なのは確かだ。

「正直、英語と比べてしまうとアラビア語には自信がないんですが、私のレベルでアラビア語を使う仕事に就いて大丈夫なんでしょうか?」

「その辺も含めて一度彼と話してみたらいいんじゃないかな。あくまでこれは紹介だから、話を聞いた上で興味があれば受けてみればいいと思うし、受けた所で内定が取れるわけでもない。でも安田さんにとって、チャンスなのは間違いないと思うよ」

先生から名刺を受け取り教室をあとにする。

その名刺には、調べるまでもなく岩泉君の家の会社が親会社なんだろうなって感じの会社名が書かれていた。

まじか。そんなつもりもないのに、しつこく彼に付きまとってるような気分になるじゃないか。

でも、岩泉君の家の会社は旧財閥なだけあって、グループ全体で100万人規模の大所帯なのだ。石を投げれば社員に当たる感じだ。きっと避けようがない。

そうだ、話だけ聞いて、良さそうなら同種の企業を受けるのもありじゃないか?

うんうん。深く考えるのはやめてしまおう。
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