岩泉誠太郎の恋
まだ本格的に就職活動を始めていなかった私は、慌ててリクルートスーツを用意した。OBの川口さんに連絡をしたのは、先生に話をもらった翌週になってしまい、彼の都合もあるので面談は更にその翌週に決まった。

「そういえば椿ちゃん、先生に就職先紹介してもらったんでしょ?どうなった?」

「え?なんで知ってるの?」

「ん?あーー、誠太郎に聞いたのかな?あの先生、誠太郎が御曹司だって知らなくて、椿ちゃんの前に声をかけたらしいよ?、、で?もう決まったの?」

「いや、まだ全然だから。紹介してもらった人に連絡は取ったけど、まだ会ってないし」

「そうなんだー。早く決まるといいね?」

「いやー。それがね?実はその会社、岩泉君の家の子会社なんだよ、、」

「それがどうかした?」

「いや、どうもしないけど。でもなんかさ、ストーカーみたいな気分になるっていうか、、」

「椿ちゃん、考え過ぎだよ。子会社だったら誠太郎とは接点ないだろうし、全然気にすることないよ?せっかくのチャンスなのに」

「わかってるけど、なんかねー。だから、話だけ聞いてみて良さそうなら、同業他社でチャレンジしてみてもいいかなって思ってるんだ。まだ焦る時期でもないし」

「なんでそんなもったいないことするのー?就職は早く決めないと、条件のいいとこはすぐに埋まっちゃうよ?誠太郎のとこの子会社なら、文句のつけようがないじゃんかー。絶対後悔するよ?」

「そんな脅すようなこと言わないでよー」

「脅しじゃなくて現実だよ!氷河期は終わっても、バブルじゃないんだから。就活は楽じゃないよ!」

坂井君がいつになく厳しい。既に親と同じ会社に就職が決まっている彼に熱弁されても、あまり心には響かないなと思ったのは、絶対に内緒だ。

心には響かなくても、坂井君の脅しが地味に効いて、若干の不安を感じつつ、面談当日を迎えた。
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