Kasane
十二単の紫の衣を
いちばん上に重ねた

夢で襲われたときから
私はあの人のことが
忘れられなかった

戸口をみたが
ききょうは挿していなかった

あの人のききょうは
挿していなかった

あけぼのの空
書き物をすることにした

清少納言 枕草子

赤ちゃんが可愛いとか
空が綺麗だとか
花が咲いたとか
どうでも良いことを書いた
そういうのが、好きなのだ。

不意に気配がして
風が私を抱いた

その風は
香りをかいで
私を堪能している
ようだった

私の着物の下に
その風は吹きつけた

あの人のことを考えた

ききょうに文をつけてほしいと
望んだ

ききょうだけでもよかった

本当は何も要らなかった

気づけば、戸口が
からからと音を立てるのを止めて

空は明るくなっていた
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