30日後に死ぬ吸血鬼と30日後に花嫁になる毒姫
抜けていく毒
それからまた数日経った。
ミルキィは血を吸われ、ラーテの身体は更に弱った。
なので一階のリビングにベッドを置くことにした。
「俺はまだ階段くらい登れるぞ」
「何かあったら困るから」
「できるだけ迷惑かけずにいようと思っている。すまない」
「迷惑なんて思ってないわ、花嫁になれるんだもの。なんでもする、ありがとうラーテ」
ミルキィは何度も花嫁になれる事が嬉しいと伝えた。
ラーテも嫌な顔などせずに笑う。
二人の間にはしっかりと利用し合う間柄が確立されたように見えた。
「……あと10日……私、ちょっと遠出してくるわね」
「一人でか……?」
「えぇ。すぐ戻る」
自分でも驚くほどにハクビヤを操ることが上手になって、今では野原を駆けることもできる。
一人でぼんやりと草原で風に吹かれていると綺麗な音が聴こえた。
「な、なんの音……?」
綺麗な音だが、なんの音かわからずに周りを見回す。
「えっ……」
ミルキィの眼の前にいたのは綺麗な羽の小鳥だった。
音は鳥がさえずる鳴き声だったのだ。
「これは……鳥……?」
初めて見る小鳥。
「あ、あなた死んじゃうわよ!」
ハタと気付いて慌てて声をかけるが、小鳥はミルキィにまた美しい歌のような鳴き声を聴かせると元気に飛び立って行く。
「毒が薄まっているんだわ」
驚くべきことだった。
昔、塔の敷地内に飛んできた大きな鷲がミルキィの前で落ちて死んだのを見た。
あの大きさの十分の一もない小鳥が生きている。
確かに自分から毒は抜けてきているのだ。
「……あぁ……」
本当に、自分は普通の女の子になれる。
これから花嫁になっても夫を失うことなく、子供とも離されず家族で仲よく生きていけるのだ。
初恋の君と……幸せな結婚を……。
なのに身体が脱力して、ミルキィは倒れ込む。
ただ涙が流れて、ミルキィはしばらく泣き続けた。
塔の前では、ラーテが待っていた。
自分で作ったのか、杖をついている。
「ラーテ……」
「ミルキィ、おかえり」
ハクビヤから降りるとハクビヤも主人に鼻を寄せる。
もう乗ることができなくなった事を詫びるようにラーテは優しく撫でた。
「どうだった遠乗りは」
「気分転換になったわ」
「いいね、素敵だ」
「今日はパスタにしましょう」
平静を装って、ミルキィは中へ入った。
ラーテの食欲も落ちて、今ではミルキィと同じくらいか少ないくらいの量になった。
「ミルキィ、あまり食べないな」
「ふふ……婚約者に会う前にダイエットよ」
「君はそのままで十分に魅力的だよ」
「いつもそんなことばっかり」
「本心さ。吸血鬼は本心しか言わない」
「もう」
二人で笑っても、ミルキィの心は痛む。
その日の夜。
また甘美な時間。
でもミルキィにとって、この快楽が辛い時間に思えてきた。
「可愛いよ……ミルキィ……素直になっていいんだ……」
「あっ……いや……んっ……」
恥じらっているわけではない、快楽はどんどん増していく。
快楽を感じてしまうこの状況が嫌だった。
ミルキィはラーテを抱きしめたくなって……やめた。
涙が溢れる。
「……大丈夫か?」
「えぇ……」
「何か痛みが?」
「ううん……体調はとてもいいの。平気よ」
「そうか……」
逆にラーテの方が、ベッドで咳をし始めた。
「ラーテ!!」
「ぐっ……! だい、大丈夫だ! ぐふっ……!!」
ラーテが血を吐いて、慌ててミルキィはタオルを探して彼の口元を押さえる。
「ラーテ! ラーテ!!」
ラーテは半狂乱になるミルキィをなだめるように、動かせる右手で彼女の手をさする。
「大丈夫だ……」
「でも」
「すまない、花嫁にこんな場面を見せてしまって……でも気にすることはないから……な」
「……気にするわ……」
「……そうだな……すまない」
「そこまでして、どうして死にたいの? マーヤって誰なの? マーヤのために死ぬの?」
「……ミルキィ」
ついに言ってしまった……。
「教えて」
「……わかった。そうだ。俺はマーヤのことがきっかけで死を選ぶことにした……」
ラーテがゆっくりと語り始める。
ミルキィは血を吸われ、ラーテの身体は更に弱った。
なので一階のリビングにベッドを置くことにした。
「俺はまだ階段くらい登れるぞ」
「何かあったら困るから」
「できるだけ迷惑かけずにいようと思っている。すまない」
「迷惑なんて思ってないわ、花嫁になれるんだもの。なんでもする、ありがとうラーテ」
ミルキィは何度も花嫁になれる事が嬉しいと伝えた。
ラーテも嫌な顔などせずに笑う。
二人の間にはしっかりと利用し合う間柄が確立されたように見えた。
「……あと10日……私、ちょっと遠出してくるわね」
「一人でか……?」
「えぇ。すぐ戻る」
自分でも驚くほどにハクビヤを操ることが上手になって、今では野原を駆けることもできる。
一人でぼんやりと草原で風に吹かれていると綺麗な音が聴こえた。
「な、なんの音……?」
綺麗な音だが、なんの音かわからずに周りを見回す。
「えっ……」
ミルキィの眼の前にいたのは綺麗な羽の小鳥だった。
音は鳥がさえずる鳴き声だったのだ。
「これは……鳥……?」
初めて見る小鳥。
「あ、あなた死んじゃうわよ!」
ハタと気付いて慌てて声をかけるが、小鳥はミルキィにまた美しい歌のような鳴き声を聴かせると元気に飛び立って行く。
「毒が薄まっているんだわ」
驚くべきことだった。
昔、塔の敷地内に飛んできた大きな鷲がミルキィの前で落ちて死んだのを見た。
あの大きさの十分の一もない小鳥が生きている。
確かに自分から毒は抜けてきているのだ。
「……あぁ……」
本当に、自分は普通の女の子になれる。
これから花嫁になっても夫を失うことなく、子供とも離されず家族で仲よく生きていけるのだ。
初恋の君と……幸せな結婚を……。
なのに身体が脱力して、ミルキィは倒れ込む。
ただ涙が流れて、ミルキィはしばらく泣き続けた。
塔の前では、ラーテが待っていた。
自分で作ったのか、杖をついている。
「ラーテ……」
「ミルキィ、おかえり」
ハクビヤから降りるとハクビヤも主人に鼻を寄せる。
もう乗ることができなくなった事を詫びるようにラーテは優しく撫でた。
「どうだった遠乗りは」
「気分転換になったわ」
「いいね、素敵だ」
「今日はパスタにしましょう」
平静を装って、ミルキィは中へ入った。
ラーテの食欲も落ちて、今ではミルキィと同じくらいか少ないくらいの量になった。
「ミルキィ、あまり食べないな」
「ふふ……婚約者に会う前にダイエットよ」
「君はそのままで十分に魅力的だよ」
「いつもそんなことばっかり」
「本心さ。吸血鬼は本心しか言わない」
「もう」
二人で笑っても、ミルキィの心は痛む。
その日の夜。
また甘美な時間。
でもミルキィにとって、この快楽が辛い時間に思えてきた。
「可愛いよ……ミルキィ……素直になっていいんだ……」
「あっ……いや……んっ……」
恥じらっているわけではない、快楽はどんどん増していく。
快楽を感じてしまうこの状況が嫌だった。
ミルキィはラーテを抱きしめたくなって……やめた。
涙が溢れる。
「……大丈夫か?」
「えぇ……」
「何か痛みが?」
「ううん……体調はとてもいいの。平気よ」
「そうか……」
逆にラーテの方が、ベッドで咳をし始めた。
「ラーテ!!」
「ぐっ……! だい、大丈夫だ! ぐふっ……!!」
ラーテが血を吐いて、慌ててミルキィはタオルを探して彼の口元を押さえる。
「ラーテ! ラーテ!!」
ラーテは半狂乱になるミルキィをなだめるように、動かせる右手で彼女の手をさする。
「大丈夫だ……」
「でも」
「すまない、花嫁にこんな場面を見せてしまって……でも気にすることはないから……な」
「……気にするわ……」
「……そうだな……すまない」
「そこまでして、どうして死にたいの? マーヤって誰なの? マーヤのために死ぬの?」
「……ミルキィ」
ついに言ってしまった……。
「教えて」
「……わかった。そうだ。俺はマーヤのことがきっかけで死を選ぶことにした……」
ラーテがゆっくりと語り始める。