30日後に死ぬ吸血鬼と30日後に花嫁になる毒姫
吸血鬼ラーテバルハザー
誰かが倒れている。
真っ黒な服を着て真っ黒なマントが見える。
ザクスミルキは男性はたまに物資を届ける御者しか見たことがないが、長身と体つきで男性だということがわかった。
「う……」
「はっ! いけない!」
ザクスミルキは慌てた。
倒れた男性は心配だが、毒姫が近づいた方が危険がある。
「……う……たの……む……みずを……」
「ま、待って……! 私じゃダメなんです!」
「だいじょう……ぶだ。おれはどくは……へいきだ……」
「え??」
うつ伏せで倒れていたが、男は倒れていた身体を少し起こして仰向けになって息を吐く。
ゾクリとザクスミルキは寒気がした。
「……人間じゃない……?」
「あぁ……でも水は必要なんだ……だから……みずをくれ……どくひめさんよ……」
「私を知って? ……何者?」
「いいから……みずをくれ」
「あ、は、はい……!」
お風呂に入る時、必ずザクスミルキは瓶に水を入れて持ってくる。
「本当に、近づいても大丈夫なのですか?」
「あぁ……へいきだ……」
素直なザクスミルキは、すぐに男の元へ駆け寄った。
「のませてくれないか……」
「ふ、触れても……?」
「あぁ」
力尽きたような男の声。
慌ててランプを足元に置いて、男を自分の膝に頭が乗るように少し抱き上げた。
男は妖艶な美青年だった。
白い肌に、絹糸のような黒髪。
苦しげな表情だが切れ長の瞳は紅玉のように見える。
そして整った唇からは牙が見えた。
「吸血鬼……」
「あぁ……はやく……」
「あ、すみません。どうぞ……ゆっくり……」
水の入った瓶を男の口元に、飲みやすいように傾ける。
男はザクスミルキの手に自分の手を重ねて、ゆっくりと水を飲む。
男の頭を膝に乗せた時も、手を重ねられた時もザクスミルキの心臓は破裂しそうなほど激しく打っていた。
誰かとこんなにも近くに……触れ合うことなど初めてだったからだ。
ゴクリと飲んだ男の喉仏が揺れる。
「ふぅ……」
ザクスミルキは男の口元をタオルで吹く。
「だ、大丈夫ですか……?」
「あぁ……すまない」
男はザクスミルキの膝の上で目を瞑る。
「少しだけ……このままで、いさせてくれ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ……心地よい、良い香りだ……」
「えっ……あ、あの……」
何もかも初めてで、感情が追いついていかない。
初めて会う謎の男の膝枕をしている。
しかもこの状況……この男、吸血鬼なのだ。
この世界には人間の他にも、魔界の住人、魔人と呼ばれる者達も存在している。
しかし魔界と人間界は無駄な争いもせず、物好きな魔人が人間に混ざり生きている……というような状況だ。
「ザクスミルキ……ドウシタ」
「あっ……バイダイ!」
「オマエ!! ザクスミルキカラハナレロ!!」
「なんだ……守護のゴーレムか」
何か異変を察して、バイダイが様子を見に来たのだ。
まさかザクスミルキが見知らぬ吸血鬼を膝枕しているとは。
「シンニュウシャ! ハイジョスル!!」
「だ、だめよ!!」
ザクスミルキは立ち上がって、バイダイに駆け寄った。
ゴーレムの戦闘モードを見るのは初めてだ。
「バイダイ、この人は今弱っているわ。攻撃してはいけない」
「ダマサレテハイケナイ。キュウケツキ!! キケンダ……!!」
「うん……俺は吸血鬼だよ。でも危害を加えたりはしない。俺は……毒姫様に会いに来たんだからな……」
「わ、私に……? ね、お願いバイダイ! 戦わないで!」
「ダケド」
「俺は今ゴーレムに殴られたら一発だ」
「具合が悪いんですよね?」
「ちょっとヘマをして、飲まず食わずでね。水を飲んで少し生き返ったけど……腹が減った」
「吸血鬼が?」
「吸血鬼だって腹は減る」
「バイダイ、お願い。彼を塔へ招くのを許して?」
「シカシ」
「だって、初めてのお客様だし、さっきのパスタがまだ残っているわ」
「……ワカッタ。オマエ、ザクスミルキニナニシタラコロス」
「だから、彼女は俺にとっても姫なんだよ……希望なんだ……」
「……私が……希望……?」
ザクスミルキにとって彼の言葉は意味がわからなかった。
ヨロヨロと吸血鬼は立ち上がる。
すごく背が高くて、今日の空高い月が彼を包んでいるように見えた。
「で……では、こちらへ……吸血鬼様」
「俺の名は、ラーテバルハザー。吸血鬼のラーテ・バルハザー。ラーテと呼んでくれ」
「ラーテ様……」
ラーテは立ち上がったが、黒髪がフラっと揺れてザクスミルキは慌てて支えようとした。
「ありがとう毒姫」
「ひゃ」
背の高い美青年が包むようにザクスミルキを抱きしめた。
倒れないようにするためだとわかっているし、王子から求婚されたばかりの娘。
だけど混乱するのも仕方がない状況にザクスミルキは陥ってしまった。
真っ黒な服を着て真っ黒なマントが見える。
ザクスミルキは男性はたまに物資を届ける御者しか見たことがないが、長身と体つきで男性だということがわかった。
「う……」
「はっ! いけない!」
ザクスミルキは慌てた。
倒れた男性は心配だが、毒姫が近づいた方が危険がある。
「……う……たの……む……みずを……」
「ま、待って……! 私じゃダメなんです!」
「だいじょう……ぶだ。おれはどくは……へいきだ……」
「え??」
うつ伏せで倒れていたが、男は倒れていた身体を少し起こして仰向けになって息を吐く。
ゾクリとザクスミルキは寒気がした。
「……人間じゃない……?」
「あぁ……でも水は必要なんだ……だから……みずをくれ……どくひめさんよ……」
「私を知って? ……何者?」
「いいから……みずをくれ」
「あ、は、はい……!」
お風呂に入る時、必ずザクスミルキは瓶に水を入れて持ってくる。
「本当に、近づいても大丈夫なのですか?」
「あぁ……へいきだ……」
素直なザクスミルキは、すぐに男の元へ駆け寄った。
「のませてくれないか……」
「ふ、触れても……?」
「あぁ」
力尽きたような男の声。
慌ててランプを足元に置いて、男を自分の膝に頭が乗るように少し抱き上げた。
男は妖艶な美青年だった。
白い肌に、絹糸のような黒髪。
苦しげな表情だが切れ長の瞳は紅玉のように見える。
そして整った唇からは牙が見えた。
「吸血鬼……」
「あぁ……はやく……」
「あ、すみません。どうぞ……ゆっくり……」
水の入った瓶を男の口元に、飲みやすいように傾ける。
男はザクスミルキの手に自分の手を重ねて、ゆっくりと水を飲む。
男の頭を膝に乗せた時も、手を重ねられた時もザクスミルキの心臓は破裂しそうなほど激しく打っていた。
誰かとこんなにも近くに……触れ合うことなど初めてだったからだ。
ゴクリと飲んだ男の喉仏が揺れる。
「ふぅ……」
ザクスミルキは男の口元をタオルで吹く。
「だ、大丈夫ですか……?」
「あぁ……すまない」
男はザクスミルキの膝の上で目を瞑る。
「少しだけ……このままで、いさせてくれ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ……心地よい、良い香りだ……」
「えっ……あ、あの……」
何もかも初めてで、感情が追いついていかない。
初めて会う謎の男の膝枕をしている。
しかもこの状況……この男、吸血鬼なのだ。
この世界には人間の他にも、魔界の住人、魔人と呼ばれる者達も存在している。
しかし魔界と人間界は無駄な争いもせず、物好きな魔人が人間に混ざり生きている……というような状況だ。
「ザクスミルキ……ドウシタ」
「あっ……バイダイ!」
「オマエ!! ザクスミルキカラハナレロ!!」
「なんだ……守護のゴーレムか」
何か異変を察して、バイダイが様子を見に来たのだ。
まさかザクスミルキが見知らぬ吸血鬼を膝枕しているとは。
「シンニュウシャ! ハイジョスル!!」
「だ、だめよ!!」
ザクスミルキは立ち上がって、バイダイに駆け寄った。
ゴーレムの戦闘モードを見るのは初めてだ。
「バイダイ、この人は今弱っているわ。攻撃してはいけない」
「ダマサレテハイケナイ。キュウケツキ!! キケンダ……!!」
「うん……俺は吸血鬼だよ。でも危害を加えたりはしない。俺は……毒姫様に会いに来たんだからな……」
「わ、私に……? ね、お願いバイダイ! 戦わないで!」
「ダケド」
「俺は今ゴーレムに殴られたら一発だ」
「具合が悪いんですよね?」
「ちょっとヘマをして、飲まず食わずでね。水を飲んで少し生き返ったけど……腹が減った」
「吸血鬼が?」
「吸血鬼だって腹は減る」
「バイダイ、お願い。彼を塔へ招くのを許して?」
「シカシ」
「だって、初めてのお客様だし、さっきのパスタがまだ残っているわ」
「……ワカッタ。オマエ、ザクスミルキニナニシタラコロス」
「だから、彼女は俺にとっても姫なんだよ……希望なんだ……」
「……私が……希望……?」
ザクスミルキにとって彼の言葉は意味がわからなかった。
ヨロヨロと吸血鬼は立ち上がる。
すごく背が高くて、今日の空高い月が彼を包んでいるように見えた。
「で……では、こちらへ……吸血鬼様」
「俺の名は、ラーテバルハザー。吸血鬼のラーテ・バルハザー。ラーテと呼んでくれ」
「ラーテ様……」
ラーテは立ち上がったが、黒髪がフラっと揺れてザクスミルキは慌てて支えようとした。
「ありがとう毒姫」
「ひゃ」
背の高い美青年が包むようにザクスミルキを抱きしめた。
倒れないようにするためだとわかっているし、王子から求婚されたばかりの娘。
だけど混乱するのも仕方がない状況にザクスミルキは陥ってしまった。