30日後に死ぬ吸血鬼と30日後に花嫁になる毒姫
契約の朝
朝、寝ぼけた脳のまま抱きしめられた温もりにミルキィは幸せを感じ擦り寄る。
「ん……?」
段々とミルキィの脳が動いていく。
「ひゃ!」
叫びだしそうになって慌てて口を塞ぐ。
あんな話をすぐに信じて、受け入れて、血を吸われた。
今更動揺で心臓がドキドキソワソワする。
「ん……」
ゆっくりと起き上がる。
ラーテは、美青年ながらも無邪気な寝顔。
「……無邪気な吸血鬼……」
ミルキィは起き上がって、そのままワインとワイングラスを台所に片付け昨日のままになっていた風呂道具を持って玄関へ向かう。
「バ、バイダイ」
玄関前にバイダイが立っていた。
「ダイジョウブカ」
「うん。心配かけてごめんなさい。でも大丈夫よ。彼はまだ寝てるの」
「イマノウチニコロスカ」
「な、何を言ってるの! あのね……彼としばらく此処で暮らすことにするわ」
「ナンダト……」
「お願い、見守って」
「……ワカッタ」
バイダイがミルキィの言葉に逆らえるはずもない。
「まだ寝かせておいて。私はお風呂に入ってから朝食を作るわ」
「ミハッテイル」
「うん。いつもありがとう」
風呂への石畳を歩くミルキィ。
実はバイダイには塔で起きた異変を報告する装置が付いている。
ミルキィは10歳の時にその装置の存在に気が付いた。
自分の身体の成長が伝わっているからだ。
それが嫌でミルキィはその装置を壊した。
でも誰も此処には近づきたくない。
魔導書から抜粋した説明書が届き、直せ直せと言われたがわからないと返答し続けて……。
数ヶ月、一年経った頃には管理者も変わったのか特に何も言われなくなった。
こんな場所に異変など起きない。
若い娘がこのイバラの監獄から逃げることなどできないし、会いに来る馬鹿もいない。
屋根のある温泉の脱衣所で、ミルキィは服を脱いだ。
昨日吸われた首元。
鏡を見ると、紅い……薔薇が咲いたような痕。
「……っ」
あの時の事を思い出すと、胸が疼く。
下着も濡らした痕が残っていて、すぐに洗濯がしたいと思った。
あんな快感がこの世にあるだなんて……。
「出逢ったばかりなのに」
すっかり心を許している。
自分にあきれてしまうけれど、彼の言葉に嘘はない気がする。
自分の猛毒の血を飲んだから、あんなに眠っているのだろうか。
ミルキィは美しい髪と豊満な胸、すらりと伸びた美しい肢体を急いで洗う。
『ミルキィ』
彼にそう呼ばれた時、とても嬉しかった。
とても甘く心に響いて、ミルキィの価値観を優しく砕いてくれたのだ。
ミルキィは濡れた髪を拭きながら塔へ戻る。
リビングを覗くと、ちょうどラーテがボーッと起きたところだ。
「おはようございます……ラーテ」
「あぁ。おはようミルキィ。朝早いんだな」
「そうでもないわ。いつもより遅いの。朝ごはんを作るわね」
「ありがとう」
可愛らしく微笑んだミルキィは台所へ消えていった。
立ち上がってソファカバーをソファに掛け直してラーテは腰を落とす。
「ぐ……初回はさすがによく効くな……」
また血を吐くラーテが口元を拭う。
その後、手際よくスープとパンとサラダ。焼いたハムにチーズ。コーヒーの朝食を用意した。
「手伝ってくれて、ありがとう」
途中から台所にラーテもやってきて、ハムを焼いたりチーズを切ってくれたりしてくれて驚いた。
一般的には家事は女の仕事で男は厨房などには入らないと読んだ本に書いてあった。
「一緒に暮らすんだし、なんでも一緒にやっていけばいい。うん、美味いな」
ラーテはスープを褒めながら飲んでくれた。
中に入っている野菜や、小さな頃から料理をしてきて掴んだコツなんかを話す。
それをラーテは優しく聞いて、たまに笑って、会話が弾む。
「……誰かと一緒に御飯を食べるのって、こんなに楽しいものなのね」
「初めてか」
「えぇ、小さい頃も食事は隔離されていたしね。その頃はもっとナイフとフォークとスプーンでっていう食事だったけど……豪華だけど……」
楽しく話をしていたのに、とミルキィは口をつぐむ。
「……寂しかったか?」
「えっと」
「寂しいと言うのは悪いことじゃない。そう思ったら言っていいんだ」
ラーテは静かに優しく言った。
心に深く沁み渡る言葉。
「えっ……あ、そ、そう……コーヒーを、おかわりを……」
目頭が熱くなって、このままだと泣いてしまいそうだとミルキィは立ち上がった。
「ミルキィ」
ラーテはそんなミルキィを追いかけて、手を掴んだ。
「いいんだよ。言っても」
「……えぇ。寂しかったわ……ずっと……ずっと」
ずっと封印していた言葉。
言ってしまったら溢れてしまう。
言ってはいけない。そう思っていた。
「君はよく耐えた」
涙が溢れてきたミルキィをラーテは抱きしめる。
「俺が必ず、君を普通の女の子にしてみせるよ」
「でも……本当に……ずっとずっと続けてきたこの運命なのに」
「呪いさ……代々続いた呪いを君で終わらせていいんだよ……」
「うん……」
「30日後に君は寂しさからも解放されるんだ……ミルキィ」
胸元で涙するミルキィは、静かに頷いた。
そして奇妙な同居生活は始まることになる。
涙を拭いて少し恥ずかしそうにコーヒーを飲むミルキィにラーテが言った。
「今日は何か特別な予定はあるかい?」
「いいえ。予定がある日なんて配給の日くらいよ」
「そうか、じゃあ俺の馬を取りに行ってもいいか?」
「う、うま?」
ミルキィの未知の世界が広がっていく。
「ん……?」
段々とミルキィの脳が動いていく。
「ひゃ!」
叫びだしそうになって慌てて口を塞ぐ。
あんな話をすぐに信じて、受け入れて、血を吸われた。
今更動揺で心臓がドキドキソワソワする。
「ん……」
ゆっくりと起き上がる。
ラーテは、美青年ながらも無邪気な寝顔。
「……無邪気な吸血鬼……」
ミルキィは起き上がって、そのままワインとワイングラスを台所に片付け昨日のままになっていた風呂道具を持って玄関へ向かう。
「バ、バイダイ」
玄関前にバイダイが立っていた。
「ダイジョウブカ」
「うん。心配かけてごめんなさい。でも大丈夫よ。彼はまだ寝てるの」
「イマノウチニコロスカ」
「な、何を言ってるの! あのね……彼としばらく此処で暮らすことにするわ」
「ナンダト……」
「お願い、見守って」
「……ワカッタ」
バイダイがミルキィの言葉に逆らえるはずもない。
「まだ寝かせておいて。私はお風呂に入ってから朝食を作るわ」
「ミハッテイル」
「うん。いつもありがとう」
風呂への石畳を歩くミルキィ。
実はバイダイには塔で起きた異変を報告する装置が付いている。
ミルキィは10歳の時にその装置の存在に気が付いた。
自分の身体の成長が伝わっているからだ。
それが嫌でミルキィはその装置を壊した。
でも誰も此処には近づきたくない。
魔導書から抜粋した説明書が届き、直せ直せと言われたがわからないと返答し続けて……。
数ヶ月、一年経った頃には管理者も変わったのか特に何も言われなくなった。
こんな場所に異変など起きない。
若い娘がこのイバラの監獄から逃げることなどできないし、会いに来る馬鹿もいない。
屋根のある温泉の脱衣所で、ミルキィは服を脱いだ。
昨日吸われた首元。
鏡を見ると、紅い……薔薇が咲いたような痕。
「……っ」
あの時の事を思い出すと、胸が疼く。
下着も濡らした痕が残っていて、すぐに洗濯がしたいと思った。
あんな快感がこの世にあるだなんて……。
「出逢ったばかりなのに」
すっかり心を許している。
自分にあきれてしまうけれど、彼の言葉に嘘はない気がする。
自分の猛毒の血を飲んだから、あんなに眠っているのだろうか。
ミルキィは美しい髪と豊満な胸、すらりと伸びた美しい肢体を急いで洗う。
『ミルキィ』
彼にそう呼ばれた時、とても嬉しかった。
とても甘く心に響いて、ミルキィの価値観を優しく砕いてくれたのだ。
ミルキィは濡れた髪を拭きながら塔へ戻る。
リビングを覗くと、ちょうどラーテがボーッと起きたところだ。
「おはようございます……ラーテ」
「あぁ。おはようミルキィ。朝早いんだな」
「そうでもないわ。いつもより遅いの。朝ごはんを作るわね」
「ありがとう」
可愛らしく微笑んだミルキィは台所へ消えていった。
立ち上がってソファカバーをソファに掛け直してラーテは腰を落とす。
「ぐ……初回はさすがによく効くな……」
また血を吐くラーテが口元を拭う。
その後、手際よくスープとパンとサラダ。焼いたハムにチーズ。コーヒーの朝食を用意した。
「手伝ってくれて、ありがとう」
途中から台所にラーテもやってきて、ハムを焼いたりチーズを切ってくれたりしてくれて驚いた。
一般的には家事は女の仕事で男は厨房などには入らないと読んだ本に書いてあった。
「一緒に暮らすんだし、なんでも一緒にやっていけばいい。うん、美味いな」
ラーテはスープを褒めながら飲んでくれた。
中に入っている野菜や、小さな頃から料理をしてきて掴んだコツなんかを話す。
それをラーテは優しく聞いて、たまに笑って、会話が弾む。
「……誰かと一緒に御飯を食べるのって、こんなに楽しいものなのね」
「初めてか」
「えぇ、小さい頃も食事は隔離されていたしね。その頃はもっとナイフとフォークとスプーンでっていう食事だったけど……豪華だけど……」
楽しく話をしていたのに、とミルキィは口をつぐむ。
「……寂しかったか?」
「えっと」
「寂しいと言うのは悪いことじゃない。そう思ったら言っていいんだ」
ラーテは静かに優しく言った。
心に深く沁み渡る言葉。
「えっ……あ、そ、そう……コーヒーを、おかわりを……」
目頭が熱くなって、このままだと泣いてしまいそうだとミルキィは立ち上がった。
「ミルキィ」
ラーテはそんなミルキィを追いかけて、手を掴んだ。
「いいんだよ。言っても」
「……えぇ。寂しかったわ……ずっと……ずっと」
ずっと封印していた言葉。
言ってしまったら溢れてしまう。
言ってはいけない。そう思っていた。
「君はよく耐えた」
涙が溢れてきたミルキィをラーテは抱きしめる。
「俺が必ず、君を普通の女の子にしてみせるよ」
「でも……本当に……ずっとずっと続けてきたこの運命なのに」
「呪いさ……代々続いた呪いを君で終わらせていいんだよ……」
「うん……」
「30日後に君は寂しさからも解放されるんだ……ミルキィ」
胸元で涙するミルキィは、静かに頷いた。
そして奇妙な同居生活は始まることになる。
涙を拭いて少し恥ずかしそうにコーヒーを飲むミルキィにラーテが言った。
「今日は何か特別な予定はあるかい?」
「いいえ。予定がある日なんて配給の日くらいよ」
「そうか、じゃあ俺の馬を取りに行ってもいいか?」
「う、うま?」
ミルキィの未知の世界が広がっていく。