30日後に死ぬ吸血鬼と30日後に花嫁になる毒姫
新しい経験、幸せな時間
ラーテの言うとおり、馬は骸骨の馬だった。
しかし遠い場所にいる主人のラーテを見ると骸骨馬は喜んだ仕草を見せた。
「ハクビヤ、待たせたな」
骸骨馬の名前はハクビヤというようだ。
背の高いラーテでも乗るのに大変そうな大きな骸骨馬だ。
頭から齧られはしないかとミルキィは少し離れた場所で見ていたが……。
「ミルキィ、怖くないからおいで。お前の香りを嗅いでいる」
「えっ……私の? 毒なのに」
「ハクビヤは骸骨だ。魂の匂いを嗅ぐ」
手招きされて、ミルキィは恐る恐る近付く。
「私の……魂の匂い……は……毒じゃないのかしら」
「可愛らしく甘い香りだ、撫でてやれ」
「えっ」
ラーテはミルキィの手を持って、ハクビヤにまず嗅がせた。
ふんふんと牙だけが光る骸骨馬はすぐに、もっと頭を下げた。
ミルキィがなでなですると、ハクビヤは嬉しそうに尾の骨を振る。
ハクビヤは大きなカバンを2つ両脇に背負わされていた。
「これは俺の荷物なんだが、後で取りに来よう」
「後で? もう帰らないの?」
「せっかくの弁当を持ってきたしな。ハクビヤも走らせてやらんとだし……なにより」
そして長い脚でまるで飛び立つようにしてハクビヤに乗る。
「ミルキィに新しいものを見せてやりたい」
そう言って、ラーテは手を伸ばしてきた。
「え……? なぁに?」
「おいで、馬に乗ろう」
骸骨の馬でもしっかりと馬具が装着されているので乗るのに隙間に落ちたりはしない。
「わ、私……乗ったことがないわ」
「わかってる。俺の前に乗れば操作など必要ないさ」
「ほんとに?」
「もちろん」
ミルキィは、乗ってみたいと思った。
自分でも信じられない気持ちが昨日から続く。
諦めていたような自分は本当じゃなかった――そんな気にさえなる。
「乗るわ!」
手を差し出すと、優しいながらの力強く引っ張られラーテの前に座ることができた。
「わぁ……た、高いわ」
「あぁ、馬だからな。よし! 行くぞ」
「えっえ……ええぇ、待っってーーー!!」
まだハクビヤの骨の首元にも布が巻かれていたので捕まることができた。
しかし数分恐怖で目を瞑っていたがラーテの笑う声と支えてくれた手に安心して少し目を開ける。
「わぁー!! なんて広いの!!」
ハクビヤの背から見る景色。
イバラの薄暗い光の届かない塔の周りとは全然違う。
小高い丘に綺麗な緑。
「人はいないが、大自然だ」
「私、私の害は本当に大丈夫?」
「だから風と共に少量の毒を農家は畑に撒く、それが農薬だ」
「わ、わからないわ」
「つまりミルキィがいても何も問題はない」
「そうなの……?」
「あぁ……見ろよ、あそこの樹々を……! 行くぞ」
「きゃあ! 早いわ!」
「楽しめよ!」
草原を走るハクビヤ。
こんなドキドキは初めてだった。
いつの間にかミルキィはハクビヤの首元ではなく、ラーテの腕をしっかり掴みながら笑っていた。
「うん、此処で昼にするか」
果実のなる木々に囲まれた草原。
ハクビヤから降りる時は支えに来てくれる。
逞しい腕が掴んでくれて、不安もなくなってしまう。
「ありがとう」
「いや、さぁお姫様」
二人で敷物を敷いた。
ワインも残り少ないがラーテの希望でバスケットに入れてきた。
「乾杯。うん、うまい」
二人で作ったサンドイッチ。
「そうね」
やっぱり話をしながら食べる食事は美味しかった。
気付けばラーテにもたれ、ラーテも肩を抱いてくれて寄り添うように話をしている。
綺麗な空に、心地よい風。揺れる草木。
他の土地に比べれば足りないものはまだあるかもしれないがミルキィにとっては楽園のようだ。
クローバーの花を集めた。
「楽しいか?」
「えぇ……とても、あなたは?」
「俺も楽しいよ」
微笑みながら、どこか遠い。
当然なのだ。彼のことは何も知らない。
30日後には正反対の運命が二人を待っている。
30日後には別れが決まっている。
ラーテはごろりと寝転んだ。
「ラーテ」
「ん?」
「ううん……なんでもない」
甘くて苦いような不思議な時間。
しかし遠い場所にいる主人のラーテを見ると骸骨馬は喜んだ仕草を見せた。
「ハクビヤ、待たせたな」
骸骨馬の名前はハクビヤというようだ。
背の高いラーテでも乗るのに大変そうな大きな骸骨馬だ。
頭から齧られはしないかとミルキィは少し離れた場所で見ていたが……。
「ミルキィ、怖くないからおいで。お前の香りを嗅いでいる」
「えっ……私の? 毒なのに」
「ハクビヤは骸骨だ。魂の匂いを嗅ぐ」
手招きされて、ミルキィは恐る恐る近付く。
「私の……魂の匂い……は……毒じゃないのかしら」
「可愛らしく甘い香りだ、撫でてやれ」
「えっ」
ラーテはミルキィの手を持って、ハクビヤにまず嗅がせた。
ふんふんと牙だけが光る骸骨馬はすぐに、もっと頭を下げた。
ミルキィがなでなですると、ハクビヤは嬉しそうに尾の骨を振る。
ハクビヤは大きなカバンを2つ両脇に背負わされていた。
「これは俺の荷物なんだが、後で取りに来よう」
「後で? もう帰らないの?」
「せっかくの弁当を持ってきたしな。ハクビヤも走らせてやらんとだし……なにより」
そして長い脚でまるで飛び立つようにしてハクビヤに乗る。
「ミルキィに新しいものを見せてやりたい」
そう言って、ラーテは手を伸ばしてきた。
「え……? なぁに?」
「おいで、馬に乗ろう」
骸骨の馬でもしっかりと馬具が装着されているので乗るのに隙間に落ちたりはしない。
「わ、私……乗ったことがないわ」
「わかってる。俺の前に乗れば操作など必要ないさ」
「ほんとに?」
「もちろん」
ミルキィは、乗ってみたいと思った。
自分でも信じられない気持ちが昨日から続く。
諦めていたような自分は本当じゃなかった――そんな気にさえなる。
「乗るわ!」
手を差し出すと、優しいながらの力強く引っ張られラーテの前に座ることができた。
「わぁ……た、高いわ」
「あぁ、馬だからな。よし! 行くぞ」
「えっえ……ええぇ、待っってーーー!!」
まだハクビヤの骨の首元にも布が巻かれていたので捕まることができた。
しかし数分恐怖で目を瞑っていたがラーテの笑う声と支えてくれた手に安心して少し目を開ける。
「わぁー!! なんて広いの!!」
ハクビヤの背から見る景色。
イバラの薄暗い光の届かない塔の周りとは全然違う。
小高い丘に綺麗な緑。
「人はいないが、大自然だ」
「私、私の害は本当に大丈夫?」
「だから風と共に少量の毒を農家は畑に撒く、それが農薬だ」
「わ、わからないわ」
「つまりミルキィがいても何も問題はない」
「そうなの……?」
「あぁ……見ろよ、あそこの樹々を……! 行くぞ」
「きゃあ! 早いわ!」
「楽しめよ!」
草原を走るハクビヤ。
こんなドキドキは初めてだった。
いつの間にかミルキィはハクビヤの首元ではなく、ラーテの腕をしっかり掴みながら笑っていた。
「うん、此処で昼にするか」
果実のなる木々に囲まれた草原。
ハクビヤから降りる時は支えに来てくれる。
逞しい腕が掴んでくれて、不安もなくなってしまう。
「ありがとう」
「いや、さぁお姫様」
二人で敷物を敷いた。
ワインも残り少ないがラーテの希望でバスケットに入れてきた。
「乾杯。うん、うまい」
二人で作ったサンドイッチ。
「そうね」
やっぱり話をしながら食べる食事は美味しかった。
気付けばラーテにもたれ、ラーテも肩を抱いてくれて寄り添うように話をしている。
綺麗な空に、心地よい風。揺れる草木。
他の土地に比べれば足りないものはまだあるかもしれないがミルキィにとっては楽園のようだ。
クローバーの花を集めた。
「楽しいか?」
「えぇ……とても、あなたは?」
「俺も楽しいよ」
微笑みながら、どこか遠い。
当然なのだ。彼のことは何も知らない。
30日後には正反対の運命が二人を待っている。
30日後には別れが決まっている。
ラーテはごろりと寝転んだ。
「ラーテ」
「ん?」
「ううん……なんでもない」
甘くて苦いような不思議な時間。