馨子ーkaorukoー
馨子と西園寺
時季は太陽にチリチリと肌を焼かれる頃。
真っ昼間の、クーラーもない狭く古いアパートで男と女は激しくお互いを求め合っていた。
どちらのとも言えない汗がぬるりと肌と肌を舐め、男は快感に顔を歪ませているが、女は笑みをたたえながらその腰の動きを止めない。
「果てなさい」
女の言葉が自身への合図だったかのように女は更に動きを速め、男は言葉にならないうめき声に似た声をもらし、あっけなく果てた。
女はその様を満足げに見下ろすと、汗もろくに拭わないまま服を着て素早く帰り支度を始めた。
「馨子(かおるこ)さん…、もう帰るの?」
男はまだ快楽の余韻から抜け出せていないのか、とろりとした目で、女…馨子の姿を追う。
「ええ、帰るわ」
凛と張りのある綺麗な声音で短く答えると薄い玄関のドアに手をかける。
「待って!また、会いに来てくれますかっ!?」
男の必死のお願いに馨子は紅が剥げた唇に意地悪い弧を描くと、
「気が向いたらね」
ひと言だけ残して容赦なくドアを閉めた。
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