馨子ーkaorukoー
西園寺は馨子の事を心から愛していたが、加齢ゆえに自身のものは機能しないが為に彼女の事を抱きたくても抱けなかった。
それが悔しくてたまらなかったが、どうしようもないことでもあった。
一度心の専門医に診てもらい、臨床心理士による検査もしようとしたのだが、馨子はそこで暴れ狂い、しまいには舌を噛み切ろうとしたのだ。
検査はもちろん即刻中止。
原因は解らないままになったが、危ない匂いがする男とは関係を持たないという約束だけ交わし、西園寺はそれで折れたかたちで収拾がついた。
そしてその約束を破ることなく、さらに10年が経ち、今の関係に至る。
気付けば馨子は西園寺の腕の中で静かに寝息を立てていた。
「…本当に、可愛い娘よ」
自分がありったけの愛情を注いで出来上がった美しい娘がこんなにも愛おしいだなんて。
西園寺は今まで結婚にも子供にも一切興味がわかなかったが、馨子という存在は伴侶と子供、両方を兼ね備えた西園寺にとって完璧な人間だ。
それはきっと馨子にとって自分もそういう存在だと確信している。
ーーーだからこそ、『あのこと』を馨子に告げるのが心苦しい。
だが。
この子にはきちんと伝えなければ。
西園寺は馨子の長く綺麗な髪にキスを落とすとかたく目を閉じた。