馨子ーkaorukoー
「あの…?」
「あっ、失礼致しました。馨子さまですね。西園寺さまから承っております。どうぞこちらへ」
ウエイターが歩く後をついていくと、レストランの奥にまるで隠し部屋のような個室が姿を現した。
そっと小さな扉が開かれ、扉の奥に進むと、
「馨子」
「っ、おじ様!!」
堪らずと言った形で抱きついてきた馨子を西園寺は細いながらもしっかりとした腕で抱きとめる。
「ふっ、また男を抱いてきたのか」
「あら。臭いが残らないようにしっかり洗い落としたはずですのに。おじ様には敵いませんわね」
馨子は微塵も悪びれる様子もなく、当たり前のように西園寺の隣に座ろうとして、慌ててウエイターが椅子をひく。
「馨子、飲み物はノンアルコールのでいいかい?」
「はい」
「あの、当店自慢のワインがご用意出来ますが…」
「すまないね。私達はふたりとも飲めないんだ」
「これは失礼致しました。すぐにお飲み物をお持ち致します」
スッとウエイターが下がった後で馨子が不満げに口を尖らす。
「あのウエイター、少し失礼じゃないかしら」
「まぁいいじゃないか。見たところまだ若かった。これからさ。それよりご覧、この夜景を」
西園寺は皺のよったごつごつとした手を眼下に広がる夜の街に向けた。