馨子ーkaorukoー
間違いなく馨子に向けての声がけだった。
声のしたほうへ向くと、いかにも『金持ち』といった風貌の30代ぐらいの男がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「…なにか?」
嫌な予感しかしない。
「アンタ、あんな爺さんに抱かれて気持ちいいのか?」
「…そんなの、余計なお世話だわ。失礼しますわね」
男を振り切るように足早にこの場から去ろうとしたが、あっという間に男に腕をひかれ、その勢いで強引に唇を奪われた。
「んぅっ!…っ、」
男の唇に自分の紅が移るが、男はそれでもキスを止めなかった。
次第に馨子の勝気な瞳がトロンととろけ始め、それを見逃さなかった男は人気のない非常口付近へ馨子を連れて行くと、その豊満な胸をドレスの上から揉みしだいた。
「なぁ、俺の女になれよ。何の不自由もさせないし、毎日こうして気持ち良くしてやるぜ?」
男の手が胸から下半身に移ろうとした時、馨子はそれを強いちからで振り払うと、いつもの勝気な瞳で、
「このわたしを気持ち良くするなんて、百万年早くてよ」
と、嘲笑した。