馨子ーkaorukoー
「おじ様とわたしの関係を邪推したことも、わたしの唇を奪ったことも、存分に後悔させてあげる」
「なっ…!!おい女!俺を誰だと思っているんだっ!俺は総理の右腕とも称されている大臣の息子だぞ!!お前みたいな女がどうこう出来る人間様じゃないんだよっ」
「ほう、麻木の右腕の大臣か。今は確か前田と言う男だったと思ったが。このあいだ麻木がアイツは使えないから近々更迭させるとこぼしていたなぁ」
「っっ!?」
「おじ様っ!」
ふたりしか居ないはずのフロアに落ち着いた少ししゃがれた声が静かに響き、その姿を確認した馨子は西園寺に駆け寄り、そのまま抱きついた。
「化粧直しにしてはあまりに遅いのでな、様子を見にきたのだよ。お前は本当に目が離せない。…怖い思いをしたな」
抱きついたままの馨子の背中を優しくさすると、馨子が微かに体を震わせた。
「…おい、爺さん。いま口にした『麻木』って、本当に総理大臣の…?」
「他にお前の父親とやらを更迭する権力を持つ『麻木』がいるのかね?」
西園寺の口調は穏やかだったが、彼から放たれる覇気に男はすっかり慄いてしまっている。
「あ、あんた、何者なんだよ…っ」