馨子ーkaorukoー
「残念だが、もうすぐ全てを失うだろう貴様に話す価値はない。…さて、帰るとするか。行こう、馨子」
「はい」
待ってくれと懇願する男を背に、馨子は西園寺に支えられながらその場を後にした。
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帰りの車の中で馨子はまるで幼ない子供のように西園寺に甘えていた。
西園寺はそんな馨子の艶やかな髪を何度も撫でながら「もう大丈夫だよ」と優しく言い聞かせる。
馨子は、25歳の時に西園寺と出会うまで不遇な人生を歩んでいた。
馨子には父親がおらず、母一人子一人の環境で育ったが、その唯一の家族である母親は馨子を可愛がらず、馨子がまだ幼ないころに育児放棄をした。
いわゆる、ネグレクトだ。
異常に痩せ細っている馨子を見かねた近所の人が児童相談所に通報して馨子が保護された時には、母親はとっくに家から姿を消していた。
その後、児童養護施設に身を寄せたが、そこは衣食住がしっかりとした施設だったので、馨子の体はみるみる発達し、上級生と比べても馨子の方がスタイルが良かったほどだ。