何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
第六章

移植

─3年後

「郁ちゃん!退院おめでとう!」
「本当に、お世話になりました」

医師や看護師らから、退院を見送られる郁。

郁は3ヶ月前に心臓のドナーが見つかり、碧が執刀する移植手術を受けた。

10時間以上に及ぶ手術に耐え、ようやく心臓の動きを助ける装置を外せた郁。

ドナーが提供してくれた大切な心臓が、碧の繊細かつ的確な手術により郁の胸に移植され、力強い鼓動を刻んでいた。


郁は、3年前の1度目の手術から半年後、体調が回復するのを待ち、2回目の手術を行っていた。

その手術でようやく自宅での生活ができる状態になった郁。

高校卒業とともに施設を退所し、碧の強い希望により碧とともに暮らし始めていた。

感染症にかかりやすいことには代わりなかったため、高校卒業後は大学に行かずに、なるべく家で療養に専念していてほしいと碧は希望していた。

しかし、郁の進学への強い希望で、大学の栄養学部にも入学した。

これまで手をつけてこなかった両親の遺産を使わせてもらうことにし、郁は新しくできた"管理栄養士になる"という夢を叶えるためのスタートを切った。

碧の健康を支えたいという思いから興味を持った栄養学という学問。

だが、大学で勉強をするうちに、病気に苦しむ患者達を栄養面から支えたいとも考えるようになり、病院で働きたいと思い始めた郁。

郁は、そんな目標を叶えるため、毎日遅くまで一生懸命に勉強する日々を過ごしていた。


そんな折、ドナーが見つかったとの知らせを受け、今回緊急入院し手術を受ける運びとなったのだ。

心臓を提供してくれた、見知らぬドナー。

夢を持てなかった郁を救ってくれ、新しい人生を始めさせてくれた碧。

そして、莫大な遺産を残すことで郁の夢への道を支えてくれている両親。

その他いろんな人に支えられてここまでくることができ、郁は今日の日を迎えられている。

感謝の気持ちが込み上げてきて、郁は涙が出た。
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