何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
─結婚式から1ヶ月後

時刻は21時。

勤務先を後にする碧。

「今日は早く帰れたな…郁はまだ起きてるかな」

郁に、今から帰るとメールを送る。

郁と暮らすタワーマンションに着き、エレベーターに乗り、20階で降りる。

郁に会える喜びから口角が自然に上がりながら、碧はガチャっと玄関の鍵を開ける。

「碧っ!おかえり!」

ふわふわの部屋着を来た郁は、長い栗色の髪を揺らしながら小走りでパタパタと走ってくる。

背の高い碧を見つめる、郁のキラキラと大きく色素の薄い目は、自然と上目遣いになる。

頬がほんのり赤く染まっている郁。
小さな唇には、健康的な血色がみられる。

状態が悪かった時には考えられなかった元気そうな郁の姿に、碧は日々心が躍る。

「郁、ただいま」

少女の頃の面影は残しつつも、移植を終えてからは少しずつ大人の女性らしくなり、誰もが美人と呼ぶ姿になった。
そんな自慢の妻である郁を抱きしめる碧。

長い髪からシャンプーのいい香りがする。
控えめな胸が、碧の体に当たっている。
ショートパンツから伸びる、色白の足。

自分が美しく成長したことを自覚しておらず、碧以外に男性経験の無い郁は、とても無防備なところがある。

碧は、郁を軽々と持ち上げる。

「…郁…このままベッドに連れて行ってもいいか?」

「だめだよ、碧。ご飯が冷めちゃうよ」

「…それは勿体無いな」

そのままキスをする2人。

今すぐにでも郁とベッドに行きたい碧だったが、郁が用意してくれた美味しい食事を無駄にするわけにはいかず、リビングのソファに郁を優しく降ろした。


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