何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
碧に車椅子を押され、産科のベッドに移動してきた郁。


妊娠していることを告げられた喜びも束の間、再び吐き気が襲い、郁はフラフラになっていた。


産科病棟で助産師として働く、中学生の頃からの親友のこころが、郁が妊娠したことを聞き、様子を見に来てくれたた。


こころの姿を見て、笑顔になる郁。


「郁、おめでとう!」


「…こころ!ありが……うっ…」


しかし、すぐに吐き気が込み上げ、膿盆を持って顔を覆ってしまう。


胃は既に空っぽでもう吐くものがなく、胃液に血が混じっている。


「…つらいねぇ。赤ちゃんが無事に生まれるよう私も精一杯サポートするから、一緒に頑張ろうね」


こころは郁の背中をさする。


郁が妊婦であると告げられ、そしてつわりという未知のことに、いつもの冷静な態度と打って変わって、オロオロしながら見守るしかできない碧。


「…先生、動揺しすぎです!」


こころが、普段と正反対の碧の様子を見て笑う。


「郁、何もしてあげられなくて、本当にごめん。」


碧が郁の髪を撫でる。


「桃井さん、頼りにしてるよ。どうか郁をよろしく。」

「任せてください!」


そんなやりとりをしていた時、碧の胸元のPHSが鳴った。

急患のようだ。


「碧…私は大丈夫だから。行って」


青白い顔をしながらも、郁が碧に力強い眼差しを向けて、はっきりと話す。


「…郁…」


「碧を待ってる人がいるんでしょう。私のことは心配しないで」


苦しいなか、笑顔を作る郁。

「…辛い時に付いててやれなくてごめん。行ってくる。」

そばにいたい気持ちを抑え、郁が見せた医師の妻としての覚悟と、母としての強さに応え、医師の顔に戻る碧だった。



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