何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
郁が愛おしそうにお腹を撫でる。


「…碧…?」


「どうした?」


「…私、お母さんになるんだね」


「そうだな。俺はお父さんだ」


碧はベッドに腰掛け、郁に寄り添い肩に手を回す。
2人で優しくお腹を撫でる。


「…私、結婚することどころか、大人にすらなれないと思っていたのに、まさかお母さんになれるだなんて。」


郁の目に涙がにじむ。


「碧が全部叶えてくれた。碧、私に素敵な毎日をくれて、本当にありがとう。」


目がうるみ、鼻が少し赤くなる郁のことを、碧は心から可愛いと思った。


「俺のおかげじゃなくて、郁が頑張ってきたからだよ。それに俺も郁に生かしてもらってる」


「シワだらけのおじいちゃんとおばあちゃんになるまで生きて、もっともっと幸せな思い出を作ろう。…できれば俺より1日でも長生きしてほしい。じゃないと毎日カップラーメン生活になる」


移植後生涯にわたり服用しないといけない免疫抑制剤の影響により、郁が老年まで長生きすることはできないだろうことは、2人ともわかっていた。


しかし、明日生きているかもわからず、先のことは考えられなかった苦しい闘病中とは異なり、今は家族で過ごす幸せな未来を考えることができる。

そんな幸せを噛み締める2人だった。


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