何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
見慣れた病室に着く碧。

郁のベッドの周りに、医師や看護師らの人だかりができている。

浅く短い呼吸を繰り返す郁の顔は青白くなり、唇の色も失われてきている。目は力なく天井を見ている。

「…郁!遅くなってごめん!苦しかったな…!」

碧は耳元で大きく声をかけ、手を握る。

郁はなんとか碧の方を見る。

「あ…お…」

碧を見つけると、郁は力なく微笑んだ。

「…あお…ありがとね…」

「…ずっとそばにいるからな…!頑張れ、大丈夫だ!」

「…あお…ありがとう…たすけてくれて…おくさんにも…おかあさんにも…してくれて…わたし、しあわせだった…」

郁の目から涙が溢れ、ベッドに落ちた。
息苦しさから、目を開けていることすら辛そうな郁。

「…俺の方こそ、ありがとう、郁…。…でも、頼む、もう話すな…しっかり息吸って、酸素を取り込んで…頑張れ…!」

「…ごめん…ひなたぼっこの…やくそく…まもれないね…」

「…何言ってんだよ…!大丈夫だ、無事に退院して、3人で…何度だって、何度だって…」

涙が込み上げてきて、喋ることができない。

「…あお…ひなたを…よろしくね…あおも…むりはしないで…でも…たくさんの…ひとをたすけてあげて……」

名前の話だって、まだきちんと出来てないだろ、と碧が言う暇も無く、郁の血圧と心拍数が落ちていく。

周りでは、医師達が処置の指示を出し、看護師たちが慌ただしく動いている。

「…あいしてるよ…あお…」

郁が、消え入りそうな声を絞り出す。

「…俺もだ、郁。ずっと愛してる…!だから…だから、お願いだから、逝かないでくれ…!」


微笑みながら郁が目を閉じ、ついに開かない瞼。

お腹に当てていた片手が、だらんとベッドに落ちる。

フーッと長く息を吐いたのを最後に、郁はそれきり呼吸を止めた。

「…郁?」

心電図の波形が、平坦になった。



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