何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
碧が、再び病室に入る。

先ほど腹部を切ったばかりの郁は、律に止血と傷口の縫合をされながらも、他の医師や看護師らにより懸命な心臓マッサージを受けている。

「…郁さん!お母さん!頑張れ、戻って来い!」

「郁ー!赤ちゃん生まれたよ!頑張ったね…!元気に泣いてたよ…お母さんに抱っこしてほしいよって、大きい声で泣いてたよ!…聞こえたでしょ、起きてあげて…!」



律やこころが大声で叫ぶ言葉にも、何の反応も示さない郁。

一定間隔で心臓マッサージをやめ、皆が祈るような気持ちで心電図をチェックする。

しかし、何度繰り返しても、心臓マッサージによって胸を圧迫されている間だけ波形が波打っており、やめた瞬間に、完全に平坦になってしまう。

様々な処置を受けるため、既にほぼ裸の状態にされた郁。

恥ずかしがり屋の郁は、こんな姿を見られたくないだろうな、と一瞬この場に不釣り合いなことを考える碧。


はだけられた色白の胸は、繰り返される強い圧迫により内出血し、青紫になってきている。

腹部の傷に当てられたガーゼに、圧迫の度、ジワジワと血が滲み、ベッドに垂れてきている。

そして、次第に半開きになってきた瞼から見える、いつもの大きな瞳からは、もう光が消えていた。

先ほどまで慌ただしく飛び交っていた律達の指示を出す声が消えていく。

病室には、不快な音で鳴り続ける心電図のアラームと、今度は瞬が馬乗りになり行っている心臓マッサージに合わせてベッドがきしむ音、瞬の荒い息遣いだけが悲しく響く。

既に医師達から出される指示が無くなり、傍らで立ち尽くす看護師達の、すすり泣く声が聞こえ始めた。

碧が、郁に近寄り、既に冷たくなった郁の手を握った。

「郁、お願いだ…目を覚ましてくれ…」

郁のそばにいたいが、今後告げられるであろう言葉を、碧は怖れていた。
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