何度生まれ変わっても ─心臓病の幼馴染と過ごした日々─
エンゼルケアを終え、霊安室に運ばれた郁。

今までの苦痛に満ちた治療から解放され、穏やかな表情で目を閉じている郁は、いつもベッドで眠る寝顔と同じ。

「…郁…目を開けてくれ…」

郁の遺体にすがりつく碧が何度呼びかけても、郁は目を開けることも、手を握り返すこともしない。

冷たく真っ白な手、少しずつ硬くなってきてしまう郁の体。

郁の死を否応なく感じさせるそんな姿と、若すぎる突然の死を受け入れたくない気持ちが相反し、碧は吐き気を覚えた。

医師として、死というものがどういうものかはわかっていたはずなのに、どんな手を使ってでも生き返らせたいと思ってしまう碧だった。

「…ごめんな。俺が風邪を引かさなければ…俺がもっと側にいてやれば…郁は死んでなかったのに…!」

自分は医師としても、夫としても失格だ。

一番大切な郁を救ってやることが出来なかった。

こんな自分は、もう医師として働くべきじゃない。

後悔と無力感が碧に襲いかかった。


それからどうしたのだろうか、気がつくと碧は瞬とこころに家まで送り届けてもらっていた。

駆けつけてくれた両親の話も頭に入らないまま、碧は気絶するかのように郁の香りが残るベッドに入り、眠った。
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