ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~

 新年を迎えて早くも一カ月が経とうかという頃、私は御鏡酒造の本社に初めて突入した。

 十二階建てのビルは一見普通のオフィスにしか見えないが、一階は自社製品のショップ、五階から十階までが工場になっている。

 温度と湿度を徹底的に管理して年間を通じて生産できるようにし、その工程で得られる情報をすべてデータ化して収集・分析しているのだそう。

 とはいえ機械ばかりに頼るのではなく、蒸米を麹にする作業や、麹と水、酵母などを混ぜる仕込みは、人の手で丁寧に行わなければいけない。日本酒造りはそれほど繊細なものなのだ。

 実家の酒蔵で学んだノウハウを活かし、成功させた史悠さんの手腕を改めて尊敬する。

 今日はこの四階にあるミーテイングルームで、新商品の試飲会が行われる。私は十数名の社員たちの前で、緊張しながら史悠さんの隣に立つ。

「御鏡依都です。少しでも皆さんのお力になれればと思っていますので、よろしくお願いいたします」

 深く頭を下げると、皆も「よろしくお願いします」と挨拶を返してくれた。

 そわそわしているのは私だけではなく、社員たちもだ。彼らがものすごく興味深げにこちらを見ているのは、私が鬼蔵元と囁かれる史悠さんの妻だからなのだろう。でも……。

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