ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 彼女の言葉に、皆の視線が私に向けられる。おそらく〝こういう時は唎酒師の出番なのでは?〟という感じで、私に気を遣ってくれているのだろう。

 なんだか気まずいけれど、ここは応えないわけにいかない。ぎこちない笑みを作って頷く。

「あ……はい! こちらの、りんご酵母で造った純米吟醸酒はいかがでしょう。青りんごのような酸味と甘みを感じられる、ジューシーなお酒です」

 今テイスティングしたお酒の中で、一番甘くて飲みやすいと感じたものの瓶を手に取った。

 未使用のグラスに注いで手渡すと、風柳さんは一度鼻を近づけてから口に含む。

「ふーん……よくわかんない」

 味わった彼女の口からそっけない感想が出て、私は肩透かしをくらった。

 う、嘘……お米から造ったとは思えないほど甘くてフルーティで、苦手な人もこれには驚くだろうと自信を持ってすすめたのに……!

 自分の味覚がおかしいのかと疑いたくなるも、社員の皆さんも苦笑しているので同じ心境になっているはず。

 でも人によってもちろん感じ方は違うので、風柳さんにはその程度のものだったのだろう。残念だけれど仕方ない。

 諦めをつけていると、風柳さんは史悠さんのすぐそばにぴたっとくっつく。

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