ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 車はすぐに発進し、私が住む恵比寿のアパートへと向かう。ふたりが話しているのを聞いていると、波多野さんのほうが年下っぽいけれど気を遣わない仲なのだとわかる。

 今日はたまたま波多野さんも仕事終わりに出かけていて、帰る途中だったのだそう。

 彼はミラーで私をちらりと見て、なんとなく含みのある笑みを浮かべる。

「そうか、あなたが花菱依都さんでしたか。社長が会っていたのも納得です」
「はあ……?」
「余計なこと言うと海に沈めるぞ」

 相づちを打ちつつ、なんで納得するんだろうと疑問に思っていると、すかさず御鏡さんがまた怖いことを言うので意識がそちらへ向いた。波多野さんは「ごめんなさいごめんなさい」と謝るも、私にこんな風に問いかけてくる。

「花菱さん、社長怖くなかったですか? この人、会社ではさすがに危ない発言はしないけどめちゃくちゃ厳しいんで、陰で〝鬼蔵元〟って呼ばれてるんですよ」
「誰だ、そんなクソダサい呼び名を考えたやつは」

 御鏡さんはずーんと沈んだ表情をするけれど、私は思わず笑ってしまった。

 確かに、彼は蔵元だもんね。社員にも厳しくしているのは想像がつくし、鬼と呼ばれるのもわかる。

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