ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
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御鏡酒造の酒蔵は、群馬との県境に近い新潟の田舎町にある。雪が多い地域なので冬は足を運ぶのもひと苦労だが、スキー場や温泉に来る人たちで賑わう雰囲気のいい町だ。
明治時代初期に創業し、とても長い歴史を持つこの酒蔵が俺の実家で、父や祖父が酒造りをしているのをずっと見てきた。彼らが生み出したそれの味を成人するまで知ることができないというのは、なんとももどかしくて切ないものがあった。
この思い出深い酒蔵に、十一月の二週目に短い里帰りも兼ねてやってきた。雪が降ると来るのも億劫になるので、だいたいこの時期に毎年一度は顔を出している。
白と黒の格子柄の壁と、真っ白な漆喰の壁の組み合わせがレトロな土蔵造りの建物。茶色くなった丸い杉玉が吊るされたその店内へ引き戸を開けて入ると、御鏡酒造のロゴが入った法被を着た母が店番をしていた。
昼間でもほの暗く柔らかな明かりが灯るその中で、彼女は俺を見てぱっと笑顔になる。シワもシミも少なく、五十代半ばに見えない綺麗な母だと思う。
「史悠! おかえりなさい」
「ただいま。なにも変わりないか?」
「ええ、皆元気よ。お父さんもじきに来るわ」