ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 朗らかな母の言う通り、すぐに蔵のほうから頭に手ぬぐいを巻いた作業着姿の父がやってきた。痩せ型だが筋肉質な身体つきで、薄く髭を生やした渋みのある顔立ちの彼が明るい声をあげる。

「おお史悠、帰ってたか。おいお前ら、社長さんのお帰りだぞ!」

 ややドスの効いた声で蔵のほうに声をかけたかと思うと、従業員である蔵人の男たちが数人やってきて並び、俺に向かって「おかえりなさいませ!」と声を張り上げて頭を下げた。俺は口の端を引きつらせる。

 そうだ、このどこかの組のような挨拶がここでは日常的なのだった……。

 極道モノが大好きな父の影響で、いつの間にか皆こういう風潮になっている。東京に本社を作ったのは、この蔵で働くのを遠慮したかったから……という理由が二十パーセントくらいあったりする。

 かく言う俺も、小さい頃からドラマを見させられていたために自然に口が悪くなってしまった。俺が悪人だと間違われたり鬼だと言われたりしているのは、確実に父のせいである。

「相変わらずガラ悪いな……酒蔵に来た気がしない」
「史悠が来るとやりたくなっちまうんだよ。大丈夫、店に来るカタギさんには普通にしてるから」
「カタギって言うな」

 あんたもカタギなんだよ、と盛大にツッコみたい。

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