ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 ほんのり頬を染めて言う母に、蔵人のひとりが「姐さん! おやっさんがいじけてます」と声を上げた。

 聞いていないフリをしつつ口を尖らせている父にも、ふたりの呼び方にも、ツッコむのが面倒になってきたのであえて触れないでおく。

 俺の実家は昔からこんな調子である。一応裕福ではあるが気取ったところはなく、なんの変哲もない平和な家族だ。


 夕方になり、もうひとりの家族である妹の叶芽(かなめ)がやってきた。

 一昨年嫁に行った彼女は、俺が帰省する時に合わせて顔を出し、皆で一緒に食事をするのが恒例となっている。彼女が帰ってきた時、蔵人たちが「お嬢!」と呼ぶのは言わずもがな。

 酒蔵の奥の敷地にある俺たちの家は、豪邸と呼ばれる部類に入るだろう。日本家屋ではないが和を意識した造りで、緑の多い土地に馴染むデザインとなっている。立派な池や庭園もあり、まるで料亭のようだ。

 御鏡家ではこの辺り一帯の土地を所有しているため、昔から周囲の人々は俺たちを崇めるように一歩引いて接する節があった。しかし父の代になってから、彼の気さくな人柄のおかげで周りとの壁がだいぶなくなった気がする。

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