ドＳな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい～子づくりは溺愛のあとで～

　ところが、戻ってきた彼女を見て一気に冷静になっていく。なぜかとても困惑した様子で、暗い表情をしているのだ。

「依都？」

　心配になって呼びかけると、彼女は俺と目を合わせずためらいがちに口を開く。

「御鏡さん……私と会っていたのは、私と母の仲を修復させようとしていたからだったんですね。祖父との交換条件で」

　重い声色で紡がれた言葉に、俺の顔も強張る。そしてすぐに、今の電話は花菱さんからだったのだろうと察した。

「……今、花菱さんから聞いたのか」

　依都は伏し目がちなまま、悲しみの色を濃くして力なく頷く。

「私、自惚れていたんです。御鏡さんは私と同じ気持ちで、ふたりでいるのが楽しいから会ってくれているんじゃないかって。でも全部仕事の一環で、私を懐柔させるためだったんですよね。プレゼントも、優しい言葉をくれるのも、全部……」

　若干震える声には、落胆と怒りもプラスされているように感じた。花菱さんがなぜ話したのかはわからないが、あの約束事を知ったら誤解しても無理はない。

　はっきり本当のことを伝えておかなければ。俺を動かすのは仕事ではなく、依都への純粋な想いなのだと。