ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
「自惚れじゃない」

 真剣に、迷いのない声で告げると、彼女の繊細な髪がかすかに揺れた。一歩近づき、華奢な腕に手を伸ばす。

「でも、花菱さんの言うことも本当だ。最初は仕事のために──」

 腕に触れた直後、依都は咄嗟に俺の手を払った。そこでようやく目が合い、彼女の瞳に涙が溜まっていることに気づく。

「すみません……! 今は、ちゃんと聞けそうにないので」

 彼女は泣きそうな顔を背けて言い、慌ただしく頭を下げる。

「帰ります。本当に、すみません」
「依都!」

 逃げるように早足で出口に向かっていく彼女を追いかけようとした瞬間、俺の足にドンッとなにかがぶつかった。

「パパ……!?」
「あぁ?」

 焦っている今の状況もあってつい鬼のような形相で見下ろすと、足にしがみついていたのは二歳くらいの男の子。

 俺の顔がよっぽど怖かったのだろう。驚いた猫のごとく身体を跳ねさせ、「ひっ」と声を漏らす。つぶらな瞳がみるみる潤み、ついに泣き出してしまった。

 ったく、なんでこんな時に……! すぐにでも依都を追いかけたいが、小さな子供をこのまま放っておくほど無慈悲にはなれない。

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