ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 諦めのため息をこぼし、しゃくり上げている男の子の前にしゃがみ込む。

「パパママとはぐれたのか? どこまで一緒にいた?」

 なるべく優しく問いかけたつもりだが、男の子は泣きっぱなしで取りつく島もない。このくらいの歳じゃ答えられないか。

 スタッフのところまで連れて行こうと、手を引いてみるも動こうとしない。仕方ないので、「心配するな」とひと声かけて男の子を抱き上げた。

 しかし、どこかへ連れ去られるとでも思ったのか泣き声がひと際大きくなり、周りの客たちの視線を一身に浴びる。

「あの子、すごく嫌がってない?」
「男の人顔怖いし……誘拐?」

 そんな声まで聞こえてくるのでつい舌打ちし、んなわけねぇだろ、と心の中でツッコんだ。そして、担ぎ上げられて絶望した顔をしている男の子をじっと見る。

「パパとママに会いたいならおとなしくしてろ。わかったな?」

 普通に宥めるつもりが、いつもの悪い癖でまるで脅したようになってしまった。これでは誘拐だと囁かれても文句は言えない。

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