墜愛
「あ、そうだ。麗蘭。」
そう言って、高坂先輩へ向けていた視線を剥がして、
私の方を向いた綾人。
「お前、昨日、仕送りの荷物引き上げて行かなかっただろ?今日こそ、持って帰れよ。だから今日も、俺の部屋、来い。」
「えー?今日じゃないとダメなの?」
「俺が今日しか空いてないの。後で連絡するから、絶対今日、取りに来いよ。じゃないといつまでも俺の部屋が片付かねーだろ。」
「そんな勝手な…」
「じゃあまた後でな。いこ、歩美。勉強する時間短くなるし。…高坂先輩、失礼します。」
そう言うと、綾人はさっと踵を返して立ち去った。
歩美も慌てて高坂先輩にお辞儀をし
「麗蘭、また講義でね!」
と言って、立ち去った。
「…綾人くんの部屋、よく行くの?」
高坂先輩が、綾人と歩美の背中を見送りながら私に尋ねた。
「いえ、そんなに行ってはないです。綾人とは幼馴染なので、親同士が仲良いんですけど、この前、仕送りの荷物を一緒にして送ってきて。それで、早く自分の分を引き上げてくれって話です。」
「そうなんだ?」
高坂先輩にしては珍しく、
なんだか冷たい反応のようにも思えた。
「…麗蘭ちゃんと仲良さげだから、嫉妬、しちゃうな。」
「へ!?」
さっきの冷たい態度は、嫉妬だったのか。
なんだか、嬉しいような…
でも喜んでいいのかよく分からない、
複雑な気持ちだ。
その後、他愛のない話をして、
とりあえず映画デートをする約束は、最後にしっかり確認し合った。
詳細は、日にちが近くなってから決めようということになり、
講義の時間が近づいてきたところで、先輩と別れた。