墜愛
有名な女優さんと俳優さんの名演技のおかげで、
小説の世界観が、想像していた以上に、拡がっていく。
幼馴染の2人。
お互い好きなのに、気持ちを拗らせて、
好意を伝えきれないまま、大人になる。
主人公たちは互いに、
1番好きな人と結ばれることなく、結婚してしまうが、
同窓会で再会し、
お酒の勢いもあって、
一夜だけ、体を重ねて愛し合ってしまう。
まるで私と綾人を見ているようだった。
主人公たちが体を重ねているシーンの間、
目のやり場に困った私は、
視線を泳がせながら、
右手側に置いていた紙コップに手を伸ばした。
すると。
肘掛けのところに置かれていた先輩の左腕に少し触れてしまい、
思わず「すみません」と小声で謝った。
ふっと笑い、小さく頭を振る先輩。
紙コップに挿していたストローに口をつけて、飲み物を口に含んだ後、
ドリンクホルダーに紙コップを戻した途端、
先輩に右手を握られた。
ドクン、と心臓が跳ねる。
先輩の顔を見ると、
しっかりと私を見つめながら
私の反応を伺うような真剣な顔をしている。
そんな表情とは裏腹に、
先輩の大きな手が、
優しく、私の手の甲に重なり、
指と指の間に、
先輩の太い指が、ゆっくりと差し込まれてきた。
ドキドキしながらそのままにしていると、
先輩が私の耳元に顔を近づけて
「このままでも、映画に集中できそう?」
なんて聞いてくる。