墜愛
「…無理です。」
私が先輩を見つめてそう言うと、
先輩は口角を少し上げ、
「…残念。」
と言って、手を離した。
先輩がスクリーンに視線を戻したので、
私もドキドキしながらスクリーンに目線を戻した。
さっきまともに見れなかったシーンは、もう終わっていた。
それでも、
先輩に手を重ねられたことのドキドキが尾を引いて、
しばらくは映画に集中できなかった。
手が重ねられただけでこんなにドキドキするってことは、
私、先輩の事、
好きになれるかな。
そんな思いが浮かんできた。
映画の後半は、涙なしには見れなかった。
すれ違い続ける2人。
そして数十年経って、ようやく一緒に過ごせる2人。
でも、それまでの時間を取り戻すにはもう、お互いに歳をとりすぎていた。
最後はベッドに2人で横たわったまま、一緒に息を引き取る。
これが2人にとっての本当の幸せだったのだろうか。
見ている側の賛否も分かれそうな、なんとも奥深い映画だった。
小説を読んでいたからそんなに涙することもないだろうと思いながらも、
結局、小説を読んでいた時以上に、涙を流しながら観てしまった。
エンドロールが終わり、照明がついてからも、
周りでは鼻をすする音が聞こえた。
私も、鼻をすすっている1人。