墜愛
「え!?な…」
「今日、えらくおしゃれしてんな。ロングスカート、裾巻き込まないように気を付けて。」
そう言いながら、私がバイクに乗るのを手伝ってくれる。
可愛いね、くらい、言ってくれればいいのに。
そう思いながら、スカートの裾を整えている間、
ヘルメットを被った綾人が、運転席に跨った。
そして振り向くと
「もしかして、高坂先輩とのデート、今日だったの?」
と尋ねてきた。
「うん…まあ。」
そう返したけど、
ヘルメットから覗く目だけじゃ、
綾人がどんな表情をしているか上手く読み取れない。
「へえ。先輩のために、そんな可愛いカッコ、したってこと?」
…ん?
今のは、褒められた、と思っていいのだろうか。
「そりゃ…一応、デートだったし。」
「ふーん…。でも、この時間に1人ってことは、まだ付き合ってないってこと?」
「…そうだけど?」
まだ、って。
もしかして、私が高坂先輩と付き合うと思ってるの?
「そっか。」
そう言うと、綾人は前に向き直り、バイクのエンジンをかけた。
いつものように私が綾人の腰に腕を回してギュッと捕まると、
それを合図に綾人がバイクを発進させた。
夜の街並みを駆け抜けていく。
相変わらず逞しい体。
こうやって密着しているだけで、私の気持ちが昂ってくるから、
やっぱり私は綾人が好きなんだと、
改めて気づかされる。
キラキラ光る街路灯が、どんどん後ろに流れていく。