墜愛
しばらくバイクを走らせた後、
綾人が乗り入れた先は、
レインボーブリッジが見える埠頭だった。
バイクを停めて、綾人がエンジンを切る。
あたりには誰もいない。
埠頭にゆっくり打ちつける波音だけが、静かに響いている。
「着いた。」
そう言うと、綾人は被っていたヘルメットを取り、
へたった髪に指を通して整えた。
私もヘルメットを取って、綾人に渡す。
先に降りた綾人から手を差し出され、バイクから降りた。
「きれい…。」
目の前に広がる東京湾の夜景に見惚れながら、思わず呟いた。
レインボーブリッジの明かりを反射した水面も、
キラキラ光っている。
夜景に目を奪われている私の横に、綾人が立った。
2人並んで、夜景に目を向けながら、言葉を交わした。
「今朝、さ。映画観たんだ。『墜愛』ってやつ。」
「そう。綾人も観たんだ。」
「うん。麗蘭が高坂先輩と一緒に観るって、言ってたから。映画見ながら、麗蘭のこと、思い出してた。」
「そっか。幼馴染の話だもんね。うちらと一緒──」
「違う。」
「え?」
いつもと違う、なんだかロマンティックな雰囲気の中、
急にいつもと違う口調になった綾人。
ドキッとして彼に目を向けると。
綾人が熱い眼差しを私に向けていた。
2人で体を重ねている時にだけ見せる表情。
こんな雰囲気の中でそんな目で見つめられたら、
…期待、してしまう。