墜愛


その言葉に、一瞬目を見開く。

驚いて、言葉を失った私に、綾人が言葉を続けた。


「今日見た映画は『墜愛』だったよね。あれ、墜落した愛、落ちぶれた愛、なんて言われて、あんまりいい意味合いじゃないって、評価されてる。俺は、麗蘭への気持ちも、関係も、そんな風に(おとし)めたくないって思った。」

「…こんな俺じゃ、麗蘭にフラれるかもしれない。付き合うなら高坂先輩の方がいいって言われるかもしれない。けど、今言わないと後悔すると思った。だから、何度でも言うよ。」


綾人は深呼吸すると、もう一度私を見つめてきた。


「俺は、麗蘭が好きだ。麗蘭だけが、好き。麗蘭も同じ気持ちになってくれるんなら…この花束と、そのネックレスを、受け取って欲しい。」


そう言って、綾人はまた、頭を下げた。


嬉しくて、涙が溢れた。


顔を上げようとしない、綾人。


花束を持つ手が、(かす)かに震えている。


その手を包み込むようにして握ると、綾人がようやく顔を上げた。


「麗蘭…」


「綾人。私も…同じ気持ちだよ。綾人が、好き。」


涙ながらにそう言うと、

綾人の手からそっと、花束を受け取った。

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