時と姿を変えた恋

 拓也君の家族のことを言っている。私は彼らを見て、向こうも私達二人の視線に気づいたんだろう、奥さんはこちらをちろりと見て視線を外した。

 でも彼は……私をじっと見ている。目が合った。そらせなくなった。

「ママ、席、こっちに来てもいい?」

 里香ちゃんがお母さんに言う。

「里香、おしゃべりしてたらだめよ。静かにできるならいいけど」

 そう言うと、ふたりは荷物を取りに行った。

 思いきって目を伏せた。

 彼は前より格好よくなった。落ち着きが出たせいだろうか。男性はアラフォーのほうが格好よくなる。あの頃のように私を見る焦った目がなくなった。

 あの日……。会社で告白されて囲い込まれた。そして、キスを直前で拒んだのは、おそらくこの最初のキスを一度したら、その後自分も止められなくなるとわかっていたからだった。
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