時と姿を変えた恋

 すると、その拓也君のお父さんが車から荷物を下ろして出てきた。目が釘付けになった。

「……嘘でしょ……」

 私は立ち止まってしまった。どうして?志田さんに違いない……拓也君のお父さんは私の会社の先輩だった。

 直属の年の近い先輩。でも彼にはすでに奥さんがいた。

 私も伸吾と付き合いはじめた頃だった。ただ、直属の先輩で話が合うのでとても仲が良かった。ふたりで飲みに行ったり、会社帰りにコンサートへ行ったこともあった。

 彼は結婚してすでに二年が経過していたが、お子さんはいなかった。今思えば、少し倦怠期だったのかもしれない。

 私は不倫をする気はなかった。最初から好きな先輩だったがそうなることはないし、なってはいけないとブレーキをかけてきた。

 何しろ、二年前のその当時、彼の結婚式の二次会にも行っていて、奥さんとみんなの前でキスさせられて平気で嬉しそうにキスする彼を見ていたからだ。

 だが、彼から告白されてそんな雰囲気になりかけたことがある。彼が独身だったら……何度そう思ったかしれない。
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