恋になるまで
恋になるまで
「失礼しました」
お辞儀をして職員室を出た私は、扉を閉めると詰めていた息を思いっきり吐き出す。
「はぁ…」
季節は秋。厳しかった残暑もとうに過ぎて、心地よい風が吹いている。校庭の木々が少しずつ紅や黄色に染まってきた。ワイシャツだけで過ごすには少し肌寒く、カーディガンを羽織って過ごすのがちょうどいい季節。
文化祭が終わって早数日。高校三年生の私達は、ついに受験シーズンに突入した。出願やら推薦やらで先生達に相談することも多々あり、職員室に通うことも多くなった。
はぁ、とおまけにもう一つため息が零れた。
「せーんぱいっ!」
「うわあ!びっくりしたぁ…」
急に後ろから肩を叩かれ、私は飛び上がった。
「おお、驚かし甲斐のある驚きっぷり」
振り向くとそこには部活の後輩である二年生の勇人(はやと)が楽しそうに立っていた。
「なんだ、勇人かぁ」
「なんだとはなんすか、なんだとは」
つい夏まで、私は陸上部に所属していた。夏の大会が終わって、私達三年生は引退してしまったけれど、部活に行かなくなった今でも、後輩たちは私達先輩に声を掛けてくれる。陸上部はみんな仲が良く、いい子達ばかりだ。
「勇人はこんなところで何してるの?」
「日直だったんで、日誌を出しに。これから部活行くっす」
「そか」
勉強漬けになってしまった放課後。部活でみんなで走っている時が、いかに楽しかったかを思い知らされる。
「私も久々に思いっきり走りたいなぁ~」
そう伸びをしながら零してしまうと、勇人はきょとんとする。
「部活、来たらいいじゃないすか!凛(りん)先輩が来てくれたらみんな喜ぶし!なにより俺が超嬉しいっす!」
「あはは、ありがと」
人懐っこい後輩だ。誰に対してもそうなんだろうが、勇人は明るい上に割とイケメンでそこそこモテる。勘違いしてしまう女の子も多そうだ。
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