恋になるまで

「息抜きに、今度寄らせてもらうね」

 話の区切りもついたと思い立ち去ろうとすると、勇人は新たな話題を振ってきた。

「明後日、体育祭っすね~」

「え?ああ、うん、そうだね」

「今年も男女混合リレー出ます?」

 体育祭のリレーと言えば、陸上部をはじめ、運動部のメンバーに任されることが多い。私も毎年のようにリレーを走っていた。

「ううん、今年は出ないよ。クラスに走りたい子多かったから」

 そう返答すると、彼はがっくりという文字が見えるくらいに肩を落とした。

「えー!そうなんすか~せっかく今年こそ先輩と競えると思ったのに…」

「勇人、いつもそれ言うよね」

 私は思わず笑ってしまう。


 彼は何故か私の走りが好きらしく、部活中もよく二人で競い合っていた。私は陸上部メンバーの中でもタイムが良く、大会もいつも上位に入っていた。


「その口ぶりからすると、勇人はリレー出るんだ?」

「出ます!!絶対一位取る!」

 気合十分の彼に、私は部活動の日々を思い返して懐かしくなる。ああ、走りたくなってきた。


「先輩」

「ん?」

「リレー、めっちゃがんばるんで、超応援してくださいね!」

「うん、もちろん」

「ついでに、俺がリレーで一位取ったら、ご褒美ください!」

「ん??」


 なんだって?と聞き返そうとしているうちにも、勇人は行ってしまう。廊下の先から「約束ですよー!!」と手を振って、そのまま奥へ消えてしまった。


 ご褒美?何を用意したらいいんだろう?


「まぁ、なんかお菓子とか用意しとくか」

 その時の私はさして気にもせず、また思考を受験勉強へと戻したのだった。

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