恋になるまで
体育祭当日は、見事秋晴れだった。
昨晩は受験勉強で少し夜更かしをしてしまったけれど、久々に思い切り身体を動かせるのは、ちょっと楽しみでもあった。息抜きにもちょうどいい。
個人競技は100メートル走と、パン食い競争に出た。結果は見事一位だった。まぁ、足にはちょっと自信があるのでね。
応援席に戻って、パン食い競争で獲得したパンを頬張っていると、クラスの男子からもちょっとだけ褒められた。
「凛、お前マジで足早いなぁ」
「まぁね、伊達に毎日走ってなかったので」
とちょっと自慢げになってしまう。
「お前のおかげでクラス優勝いけるんじゃね?」なんて言われたので、少し鼻が高かった。
男女混合リレーには出ないけれど、女子のリレーには参加した。ついでにこっちも一位を取ることができた。あー、やっぱり走るのは楽しい!
リレー終わりに自販機で飲み物を買っていると、勇人がひょっこりと現れた。
「先輩、お疲れっす!」
「お疲れ様~」
スポーツドリンクをぐびっと飲み干す私に、勇人は目を輝かせる。
「リレー見てました!やっぱ凛先輩の走り、超かっこいい!」
「えへへ、ありがとう~」
またまた鼻高々になっていると、勇人が声のトーンを一段低くして聞いてくる。
「ところで、さっき楽しそうに話してた男子は誰っすか?」
「え?」
勇人からは聞いたこともないような低い声だったので、私は思わず聞き返してしまった。
そこにちょうど、男女混合リレーの集合を呼びかける放送が聞こえ始める。
「あ、俺行かなきゃ」
「あ、うん、頑張ってね」
そう声を掛けると、勇人はにっと笑う。
「一位取ったらご褒美!忘れないでくださいね!」
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
私の返答に、勇人の表情がぱぁっと輝く。いつも通りの彼だった。さっきのはなんだったのだろう。
「この走りを先輩に捧げますっ!」
「はいはい、頑張ってね」
私はひらひらと手を振ると、彼の背中を見送る。
いちいち大袈裟な子だ。それでもいつも元気な勇人の姿を見ていると、受験勉強の疲れなんて吹き飛んでしまうほど元気が出る。何事にも全力投球な彼の姿を見て、私も弱音を吐いていられないな、と明るい気持ちになった。