マンハッタン・キス☆Till I hear you say you love me
 十年前…か。そういえば、父と母が離婚したのも十年前だ。斉木先生が奥さまを亡くされた時期と重なる。

 もしかしたら、その十年のあいだに、母とこの人は、人目を忍んでこっそり逢瀬を重ねていたのかもしれない。というよりも、お互いに制約が無くなったのだから、一緒になってしまえば良かったのに。

 まあ…でも、本人たちにしかわからない事情があったのだろう。

 三十年に渡る愛の重さなんて、三十年ちょっとしか生きていないわたしには、まだまだ理解が及ばない。

「斉木先生。わたし、そろそろ失礼します」
「ああ…もう行きますか」
「最後に、先生の血液型を教えてください」
「僕の?」
「そうです」
「僕はO型ですよ」

 やっぱりそうか。ならば可能性は…ある。

「父もO型なんです」
「…そうですか」
「では、これで失礼します」
「あ、ああ」

 斉木先生は何か言いたそうにしている。わたしは、失礼しますとお辞儀をし、母が最後に暮らしていた部屋をあとにした。
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