Crazy for you



デートの日。
その日は一日雨予報だった。

本当は屋外でアスレチックとか遊園地とかがよかったけど、仕方がない。
今日はどこに行くのかなあ。

ピロンと通知がなって、確認すると孝ちゃんから「ついたよ」ときていた。
私はもう一度鏡をみて、おかしいところがないか確認したあと、家を出た。

家を出ると、孝ちゃんが玄関のポーチに立っていた。
孝ちゃんはジーパンにベージュのシャツを着ていた。
そのシャツは私が以前誕生日にあげたもので、それだけで少し嬉しい。

「あ、おはよ」
「おはよ、香帆」
「わざわざ玄関まで来てくれたの?」
「うん。雨だったからね」
孝ちゃんはそういって手に持っていた紺色の傘を開けた。
隣にどうぞ、と目で合図してくれる。

え?
相合傘ってこと?

どきどきしながら、傘に入ると、さりげなく私の肩まで入るようにしてくれる。

「濡れるからいいよ」
「すぐ車乗るから大丈夫」
そういわれるとなにもいえなくなってしまってお言葉に甘えることにした。
いつもより肩が近くて触れ合える距離に胸をときめかせながら家の前に停めてある孝ちゃんの家の黒い車に向かった。

車までは、数十秒くらいしかなかったけれど、その距離の相合傘だけで私は今日が雨でよかったと思った。

孝ちゃんが助手席のドアを開けてくれて、「お邪魔します」と小さく行って中に入り込む。

孝ちゃんは高校卒業後すぐに教習所に通って免許を取得していた。私は乗るのは今日が初めてなので新鮮だった。

「じゃあ行こうか」
運転席に座った孝ちゃんはエンジンをかけて車を発進させた。
目的を決めていないお出かけも初めてだ。

「助手席のお茶、飲んでいいよ」
助手席のドリンクホルダーには私が好きなほうじ茶のペットボトルが置いてあった。
「ありがとう」
こういうスマートな心遣いがモテる所以だと思う。
「今日、化粧もしてるし髪も可愛いね。編み込みなんて香帆できるんだ」
「えへへ。練習したの」
化粧もちょっとだけして、髪自体は長くないので、高度なことはできないけど、ハーフアップの編み込みをしたことに気づいてくれて嬉しい。
「香帆はいつも可愛いけどね」
「ありがとう」
付き合う前からこういうことをいってくれるのも孝ちゃんのすごいところだ。

「どこに行きたいか希望ある? なければ映画とかななと思ったけど」
「あ、映画いいね! ちょうどみたいのあったんだー」
「それじゃあ映画にしようか」
あっさりとどこに行くかは決めることができて、そのまま孝ちゃんの運転で映画館を併設しているショッピングモールに向かった。

映画館の支払いや飲み物も孝ちゃんがすべてリードしてくれて、私はついてまわるだけだった。
なにかしたいと思うけど、そう思う前にぜんぶ孝ちゃんがしてしまうのでなにもできない。


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