スカートを穿いた猫
イケメンじゃない方
薄く塗ったベースに自然に見えるアイメイク、ふんわりとパウダーを乗せて鏡を見る。
発色が控えめのリップを乗せればスクールメイクの完成だ。
(あとは、髪だけ)
家を出る時刻まではあと15分。
ヘアアイロンを使おうといつも置いてある洗面所を探す。
「無い!」
慌てて階段を駆け上がり、自室の隣にある扉をドンドンと叩いた。
「お兄ちゃん!アイロン持っていってる!?」
中からドアが開いて、私よりもしっかりとしたメイクを施した兄が顔を出す。
「多実、おはよ」
兄は私が来ることをわかっていたかのように、その手にヘアアイロンを持っている。
「ん、まだ熱いから気をつけて」
私にアイロンを手渡す兄は、セパレートしたまつ毛にグレー味のあるカラコンを装い、今日はミステリアスな雰囲気のある美女のような見た目。
そう、うちの兄は男の娘である。
ジェンダーレス男子にも当てはまるかもしれない。本人にとっては好きな格好をしているだけ。
女装だけでなく日によっては男っぽい格好や中性的な格好の時もある。要は、おしゃれを楽しんでいるのだ。
今でこそ自由な格好で大学に通っているけれど、高校時代は家族や一部の友人にしか明かしていない秘密だったそう。
今でも相手によっては女装趣味のことは秘密だとか。
でも、私は思う。
大なり小なり、きっと誰にでも秘密はあるものだと。
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