スカートを穿いた猫
上靴がキュッとリノリウムを踏む。
廊下の窓からは柔らかい木漏れ日が差し込んでいる。
結局職員室へ行くなら私が鍵と日誌を届ければよかったなーとぼんやり考えていると、ちょうど月太と鉢合わせた。
「まだ帰ってねーの」
「うん、落としもの届けようと思って」
拾ったリップクリームを見せると、月太の視線がそれを追う。
そして、手が伸びてきたかと思うと、ひょいっと奪われてしまった。
「え?」
月太がリップクリームをじっと見ながら私へ問う。
「どこで拾った?」
「教室の前で……」
意図がわからずにいる私が首を傾げながら答えると、月太はごほんと咳払いをした。
「あー、俺が届ける」
「え、でも職員室すぐそこだし」
斜め前にある職員室のプレートを見上げると、月太も私の視線の先を見る。
しかし、その落とし物が月太の手を離れることはなかった。
「いいから。俺先生に用あるの思い出したからついでだし」
「え、うん、ありがと」
月太がやたら親切な気もするけれど、ついでだと言うのならいいかと思いリップクリームを託す。
手を振って下駄箱へと歩き出し、ちらりと後ろを振り返る。
月太はまだ職員室の前に立っていて、私に気づくと片手を軽く上げひらひらと振る。
いつもならさっさと背を向けていそうなものだけれど……。
引っかかった軽微な違和感は、下駄箱で靴を履き替える頃にはすでに忘れ去っていた。