惰眠をむさぼるくらいなら
私の親友はかわいい。
拾った落としものが実は落としものじゃなくて、持ち主にスリだと疑われたり。
逆方面の電車に乗ったことも気づかないで終点まで行って、山だらけの無人駅に降ろされたり。
不憫でアホらしくて、ついつい甘やかしたくなる。それが私の親友、日葵だ。
中途半端に悪運を持っていて、それを本人は自覚していない。
そんなところもかわいいけれど、彼女の本当のかわいさはそこにあらず。
正直、彼女のかわいさをひと言で言い表すのはむずかしい。
だけど、さもないと死ぬと言われたらまとめるしかない。
日葵はひと言で言えば、高校2年生にもなって小学生の恋愛観で生きているような女の子だ。
たとえば、そうだな……。
ああ、ちょうどこっちに来た。
またなにか、それらしい話題を持ってくるだろう。
「菜花、聞いて! 今、穂稀がさー」
ぷくっと頬をふくらます日葵。
彼女の口から出てきたのは、例によって穂稀くんの名前で、私は思わず口角を不敵に笑わせてしまった。
さてさて、どんな話を聞かせてくれるのか。
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