アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし。

「うーん…。いまいち。さっきもずっと、変な夢を見てて…」

「変な夢?」

「あなたは神様だ、って讃えられて…生き血を捧げろって全身から血を抜かれたり…歯を抜かれたり、冷たい河に浸けられる夢だった…」

「…そりゃ悪夢だな」

神様を河にぶち込むって、どんな文化だよ。

ホラー映画ばっかり観てるから、そんな恐ろしい夢を見るんだよ。

「痛かった…。夢なのに、自分のことのように痛かったよ…」

「そうか…。災難だったな…」

起こしてやれば良かったな。そんな悪夢を見ていたんなら。

体調が悪いときに悪夢なんか見たら、余計具合が悪くなりそうだ。
 
実際今の寿々花さんも、どうやらあまり熱が下がっている様子はなさそうだ。

うーん…。まだ駄目か。

「でもね、怖い夢だったけど…。格好良い人が助けに来てくれたんだ」

…ほう?

助けてもらったなら、あながち悪夢とも言えないな。

よく言うじゃん?化け物とか幽霊に襲われて逃げる悪夢を見たときも、上手く逃げ切れたら、むしろそれは吉夢だって。

まぁ、俺はそういう夢を見たとき、逃げ切れた例がないけどな。

大抵捕まってるか、逃げ惑ったまま途中で目が覚める。

しかし今回の寿々花さんには、どうやら悪夢から助けてくれる人がいたらしい。

「格好良く颯爽と現れて、悪い人達の手から助けてくれたの。悠理君にそっくりな人だったな」

「へぇ…。それは良かったな」

「うん。きっと、現実で悠理君が傍に居てくれたからだね…。…ありがとう。凄く心強いよ」

…そ、そうか。

面と向かって言われると、何だか気恥ずかしい…ような。

「そ、それより…」

と、俺は強引に話を変えた。

「寿々花さん、何か食べるか?何か食べて、風邪薬飲んでまた寝ろ」

「…寝てばっかりだ…」

「病人なんだから、寝るのが仕事だろ」

それに、あんたは具合悪くなくてもよく寝てるだろ。

「さっき寿々花さんが寝てる間に、玉子粥作ったんだけど…食べられそうか?」

「玉子粥…?」

「温めて持ってくるから、ちょっと待ってろ」

寿々花さんみたいに、気の利いたアレンジレシピとか作れたら良かったんだけどな。

俺にはそういう、持ち歌ならぬ、持ちレシピはないから。

昔から伝わる、普通の玉子粥しか作れなかった。

これも、ジンジャーミルクと同様、星見家で風邪引いたときの定番メニューだ。

キッチンに行って、作っておいたお粥を土鍋に入れて温め、寿々花さんに持っていった。

「…はい、これ…。持ってきたぞ」

「うん…」

「せめて少しでも食べて…。それから水分補給だな。スポーツドリンクあっためようか?それとも、喉が痛いならオレンジジュースの方が良いか?」

「…」

「それと…ゼリーとか、アイスクリームもあるけど。何か食べたいものがあったら」

「…」

寿々花さんは答えずに、じーっと俺の顔を見つめていた。

…あ、ごめん。ついべらべらと喋って…。

「…鬱陶しかったな。ごめん…」

ただでさえ具合が悪いのに、耳元でべらべら喋られて、鬱陶しかっただろう。

…しかし。

「ううん、鬱陶しくなんてないよ…。むしろ、何だか…変な気持ちなんだ」

…変な気持ち?
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