アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「じゃあまずは入門編から」

早口言葉の入門編…。

やっぱりあれかな。生麦生米生卵…とか。

あれってシンプルだけど難しいよな。

「えーと…。これだ。となりのきゃくは…だって」

あー、はいはい。柿喰う客な。あれも有名だよな。

「先に間違えずに言えた方が勝ちね。えーと…。隣の柿はよく客食うだ」

「ちょ、逆、逆!」

「ほぇ?逆?」

すげー猟奇的な柿みたいになってる。

むしろそっちの方が難しいだろ。

「柿が人間を食うなよ。客。客が柿を食うの」

「客だね?うん、分かった。じゃあ、えーと…。隣の客はよく客食う客だ」

「さっきより更に猟奇的…!」

客が客を食ってる。突然のカニバリズムやめろ。

「あれ?何だか違った?」

「隣の客が。隣の客、いや柿を食う柿…じゃなくて客だよ」

やべぇ。俺もよく分かんなくなってきた。

寿々花さんのせいだからな。

「あぁもう、次だ次。次に行くぞ」

「え?まだステップ1なのに」

ステップ1で間違えまくってんのに、この後大丈夫だろうか。

早口言葉集を1ページ捲って、ステップ2。

「次は…坊主が屏風に…だって」

上手に坊主の絵を描いたんだろ?

これも有名だな。

隣の客…より簡単じゃね?気の所為か?

「これなら言えるだろ。はい」

「うん、大丈夫。えーと、ぼうずがじょうずにぼうずにじょうぶの絵を描いた」

支離滅裂。

…じょうぶの絵って何?

「違うって。坊主が屏風に坊主に上手な、あぁもうめちゃくちゃだよ」

「悠理君も言えてないね」

あんたが先に、支離滅裂なこと言い出すからだろ。

ステップ1、ステップ2共に惨敗。

早口言葉もまともに言えないのか。俺達は。

自尊心抉られるなぁ…この本。

「もう良い。次だ、ステップ3は?」

「えーと、これ。東京特許…だって」

あー、あれな。東京特許許可局長〜…って奴。

…むずくね?ステップ3。

柿喰う客も絵を描く坊主も言えなかった寿々花さんには、難易度が高過ぎるのでは。

「よし、これなら言えるよ」

何処から来るんだ?その自信。

「じゃあ、はい。どうぞ」

「と、とうきょうとっきょきゃきょきゅちょう、きょうきゅうきゅ、きゅうきゃきょきゃっ…」

「…」

「…舌、噛んじゃった…」

「…そうか」

案の定、ってところか。

ほぼ言えてなかったけど、そのチャレンジ精神は高く評価しておくよ。
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