アンハッピー・ウエディング〜後編〜
少しずつ、列が短くなっていくに連れて。

…段々と、雲行きが怪しくなってきた。

というのも。

「また泣いてる…」

「これで何人目でしょうね」

出口から戻ってくる子供の大半が、泣き叫びながら出てくるんだよ。

中には、自分で歩くことも出来ず、親御さんに抱えられてようやく出てくる子もいる。

幼稚園児や、小学校低学年くらいの子だけならまだしも。

結構大きい子、五、六年生くらいの子も泣きながら出てくるの。

あんなに大きくても、泣いて出てくるってどういうことだ?

勿論、泣かずに戻ってくる子もいるんだけど。

怖くないから泣かなかった、じゃなくて。

顔が不自然に引き攣っていて、恐怖で固まってるんだよ。

あまりの恐怖に涙も出ない、みたいな様子で。

ギャン泣き、半泣きの子供を連れている親御さんも、引き攣ったような顔をしている人が多くて。

何なら子供だけじゃなくて、高校生や大学生くらいの人でも、肩を震わせて出てくる始末。

皆…大丈夫か?一体どうしたんだよ?

さすがの俺も、これはもしかしたら普通じゃないのかもしれない、と思い始めた。

「なぁ…。皆、何で泣いてるんだ?」

「何でって…。…怖いんじゃね?」

えっ。

このお化け屋敷が、ってことか?

…そんなに怖いのか?これ。

俺はてっきり、ハムスターランドで乗ったハムーテッド・マンションと似たようなものだと思っていたのだが。

こんなデパートの一角で、夏休み限定で開かれるイベントだろ?

所詮子供騙しみたいなもんだ、とたかを括っていた。

…しかし。

またしても泣き叫ぶ声がして、出口の方を見ると。

俺達と大して歳の違わない、中学生か高校生くらいの女の子二人組が。

涙でくしゃくしゃの顔をして、二人で抱き合っていた。

…。

…ヤバくね?

もしかしたら、いやもしかしなくても…これってヤバいんじゃね?

そんな怖いの?恥も外聞もなく、人前で泣くくらい怖いの?

更に、そんな俺の不安に追い討ちをかけるように。

お化け屋敷のスタッフらしき人が、繰り返し繰り返し、行列に並ぶ人に向かって注意事項を伝えていた。

「心臓の弱い方の入場はお控えください」ってさ。

つまりそれって、心臓の弱い方が入ったら危ない、ってことだろ?

…あれ?俺、これ大丈夫?

俺って心臓弱いっけ?

…思い出す。ハムスターランドでの出来事。

絶叫系アトラクションに立て続けに乗せられ、ごっそり体力を奪われてヒーヒー言ってた自分のことを。

…あれ?やっぱり俺、ヤバくね?

今更になって、危機感を覚えたが。

「だいぶ列が短くなってきましたね。あと10分ってところでしょうか?」

「あー長かった〜」

乙無も雛堂も、ケロッとしてるし。

何より。

「もうすぐだね、悠理君。楽しみだね」

「あ、あぁ…」

寿々花お嬢さんが、目をキラキラさせて楽しみにしてるのに。

…やっぱり俺だけ遠慮するわ、なんて言えないじゃないか。

新手の脅迫じゃね?これ。
< 11 / 645 >

この作品をシェア

pagetop