アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…などと、思っていた数日後のことだった。

その日の朝、いつものように登校すると。

「おっ、星見の兄さんが来たな。待ってたぞ」

「…は…?」

…何?何か用でも?

「ちょいちょい、こっちこっち」

めっちゃ手招きしてくる。

…何を企んでるんだ?

怪しいから、むしろ近寄りたくないのだが?

しかし、無視する訳にもいかず。

「何だよ…。不気味なんだけど?」

「そう言うなって。良いもんあげるから、ほら」

寿々花さんならそれで釣れるかもしれないけど、俺は釣られないぞ。

不審者に声をかけられたら、相手をせずにすぐ逃げなさい、って教育を受けてるもんでな。

雛堂は、何やら大きな紙袋を持っていた。

…何だあれ?

「乙無…。何のことか知ってるか?」

念の為に、先に乙無に尋ねておく。

しかし。

「僕は知りませんよ。何も関知していません。見てもないし聞いてもいませんから」

乙無、完全にノータッチ。

乙無がここまでスルーを決め込むってことは、つまり関わらない方が賢明ってことだ。

よし、分かった。

「さーて。雛堂の寝言は無視して、日本史の小テストの勉強でもするかな」

「ちょ、おいって!寝言じゃねーよ!」

「何処かから雛堂の声が聞こえるような気がするが、多分気の所為だな。小鳥さんの声だろ」

「小鳥さんじゃねーって。聞こえてんじゃん!相手してよ!」

…ちっ。駄目か。

スルーしたかったのに、そうはさせてくれないらしい。

「…何だよ?怪しいことに巻き込もうとしてんじゃないだろうな」

「怪しくねーよ。失敬な」

怪しいんだよ、物凄く。

その大きな紙袋の中身がまず怪しい。

何が入ってんだ?…それ。

「これ、星見の兄さんにあげるよ」

その怪しい紙袋を、あろうことか俺に差し出してきた。

…。

「…いや、押し売りは結構だから」

「押し売りじゃねよ。タダであげるっての」

「…」

「怪しいもんでもないって…。マジだよ。信用してくれよ」

…あ、そう。

でも乙無が頑なに関与を否定するから、怪しいor危ないものなんじゃないかと思って。

「乙無の兄さんに要らないって言われたからさー。もう星見の兄さんにもらってもらうしかないんだよ」

「…それ、何なんだ?」

「ゲームだよ。テレビゲームの本体」

成程、乙無が関与を否定していた理由が分かった。

…学校に持ってきて良いもんじゃねーだろ、それ。

バレたら没収は勿論、そのまま一週間くらい停学処分にされかねんぞ。

俺も聞かなかったことにして、先生にチクろうかな。

「…あんた、アホなのか?」

学校に余計なもの持ってきたらいけないって、小学校の時習わなかったか?
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